News Release

ゲノム編集技術を用いた簡便・正確・高効率な遺伝子挿入法の開発

ヒト培養細胞、カイコ、カエルで成功

Peer-Reviewed Publication

Hiroshima University

image: This image shows fluorescence visualization of a gill in a frog embryo using the PITCh knock-in system. The arrow indicates the gill (green). view more 

Credit: Department of Mathematical and Life Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University

このニュースリリースには、英語で提供されています。

本研究成果のポイント

    1. 人工DNA切断酵素と生物が持つDNA修復機構の一つを利用して、染色体上の狙った位置に外来遺伝子を挿入する技術を開発
    2. ヒト培養細胞や両生類(カエル)において、目的タンパク質の可視化に成功
    3. 昆虫(カイコ)においても、染色体上の狙った位置に蛍光タンパク質遺伝子を挿入することに成功

広島大学大学院理学研究科山本卓教授のグループ(本研究の代表は鈴木賢一特任講師および佐久間哲史特任助教)は、広島大学大学院理学研究科小原政信教授および独立行政法人農業生物資源研究所遺伝子組換え研究センター瀬筒秀樹ユニット長らのグループとの共同研究により、人工DNA切断酵素(※1)を用いた、簡便、正確かつ高効率な遺伝子挿入技術の開発に成功しました。ヒト培養細胞だけでなく、昆虫や両生類においても、この技術の有用性が示されました。今後、様々な細胞種や生物種でこのゲノム編集技術(※2)が応用され、基礎生命科学研究および応用研究への発展に貢献することが期待されています。

本研究成果は、11月20日(日本時間午後7時)、英国Nature Publishing Groupの科学雑誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

【URL】http://www.nature.com/ncomms
【論文タイトル】
" Microhomology-mediated end-joining-dependent integration of donor DNA in cells and animals using TALENs and CRISPR/Cas9"
【著者】
Nakade S, Tsubota T, Sakane Y, Kume S, Sakamoto N, Obara M, Daimon T, Sezutsu H, Yamamoto T, Sakuma T and Suzuki K

背景

近年、人工DNA切断酵素であるTALENやCRISPR/Casを用いたゲノム編集技術により、様々な生物種において高効率な遺伝子破壊(ノックアウト)が可能となりました。しかしながら、染色体上の狙った位置に外来遺伝子(例えば緑色蛍光タンパク質遺伝子等)を挿入するノックイン技術は、いまだ効率が低く、新しい技術の開発が急務でした。ノックイン効率が低い要因としては、多くの生物種や細胞種で相同組換え修復(※3)活性が低いことが挙げられます。

研究手法と成果

我々は、人工DNA切断酵素により切断された標的部位で、切断末端の相補配列同士が結合することにより修復されるマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ(※4))が生じる確率が高いことに気付きました。本研究では、MMEJ修復機構を利用して外来遺伝子を挿入するため、ドナーベクターに人工DNA切断酵素の認識配列を加えています。その配列には、二本鎖切断時に染色体上標的部位とベクターの切断末端で相補結合するように工夫を施しました。このドナーベクターをTALENやCRISPR/Casと一緒に導入することにより、緑色蛍光タンパク質を荷札(タグ)として標的遺伝子に挿入した結果、ヒト培養細胞やカエルの受精卵において効率よく標的タンパク質を可視化することに成功しました。また、カイコにおいても染色体上の標的部位に緑色蛍光タンパク質遺伝子が挿入されたことが確認され、この技術が様々な生物種において有効であることが示されました。

期待される波及効果と今後の展開

相同組換えによるノックイン効率はそれほど高くないため、限られた細胞種や生物種のみで行われてきました。しかし、今回開発したノックイン技術は、ヒト培養細胞に限らず、昆虫からほ乳類まで幅広く適用可能です。遺伝子発現調節の解析やタンパク質へのタグ付加などが簡単に行えるようになるため、基礎生物学分野における遺伝子改変生物や細胞株の作製に大きく役立つことが期待されます。また応用分野での利用例として、ヒトの遺伝性疾患の原因変異を有する遺伝子をノックインすることにより、病態モデル細胞や動物を作製する用途、あるいは医薬品スクリーニングのためのレポーター細胞や動物の作製などが期待されます。さらにカイコでは、これまで不可能であった100%組換えシルクの開発が可能になり、生物工場としての利用においても、医薬品等の原料となる有用タンパク質の生産量が劇的に増えることが期待されます。

1 人工DNA切断酵素 DNAに結合する部分とDNAを切断する部分を人工的に融合させたタンパク質(Transcription Activator-like Effector Nuclease, TALEN)や標的配列に結合するガイドRNAを認識してDNAを切断するタンパク質(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats/ CRISPR associated protein, CRISPR/Cas)がある。どちらも、ゲノム中の特定の遺伝子配列のみを切断することが可能である。

※ 2 ゲノム編集技術 人工DNA切断酵素によってゲノムDNAにDNA二本鎖切断を誘導し、その修復過程において、標的遺伝子への欠失や挿入変異を導入したり、ドナー構築を用いた相同組換えによって遺伝子を改変する技術。

※ 3 相同組換え修復 真核生物が持つDNA修復機構の一つ。別な鋳型DNA(姉妹染色分体)の相同な配列を基に、二本鎖切断が生じた場所を修復する機構。

※ 4 マイクロホモロジー媒介末端結合 Microhomology-mediated end joining (MMEJ)。真核生物が持つDNA修復機構の一つ。二本鎖切断の際に生じた切断両末端間で、相補的な配列(五〜二十五塩基対)同士で結合し、修復される機構。

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