News Release

免疫のブレーキ役である制御性T細胞の分化メカニズムの一端を解明

自己免疫疾患や炎症性腸疾患の症状を抑えるリンパ球ができるしくみ

Peer-Reviewed Publication

Toho University

Toho Scientists

image: Takaharu Katagiri, M.D., standing on the front and Hiroyasu Nakano,M.D.,Ph.D., Professor of the Toho University Medical School, standing on the back with other lab members in his lab. view more 

Credit: Toho University Medical School

東邦大学医学部生化学講座の片桐翔治大学院生、山﨑創准教授、中野裕康教授らの研究 グループは、JunBという転写因子が、インターロイキン-2(IL-2)というサイトカインの シグナルを活性化することにより、免疫のブレーキ役としてはたらく制御性 T 細胞(Treg 細胞)の生成を促進することを明らかにしました。今回の発見により、炎症性疾患の病勢

を決めるメカニズムの一端が解明されたほか、その治療に向けた新たなアプローチの可能 性が広がりました。 この成果は 2019 年 7月 8日に、雑誌 Mucosal Immunologyにて発表されます。 本研究は、東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野(大橋) 亀田秀人教授、同 微生物・感染 症学講座 舘田一博教授、九州大学大学院医学研究院 住本英樹教授らとの共同研究による ものです。

◆ 発表者名:山﨑 創 (東邦大学医学部生化学講座 准教授) 中野 裕康(東邦大学医学部生化学講座 教授)

◆ 発表のポイント:  制御性 T細胞(Treg 細胞)は、様々な免疫反応を抑えるという重要な役割を担うこと から、発見以来高い関心を集めていますが、体の中で Treg 細胞がどのようにできるか については十分に理解されていません。今回、研究グループは、JunBという転写因子 を欠損したマウスでは、IL-2 のシグナルが伝わらないために、Treg 細胞が十分に生成 されなくなっていることを突き止めました。  JunB を欠損したマウスでは Treg 細胞が減少しているため、ヒト潰瘍性大腸炎の疾患 モデルの症状が悪化することを見出しました。  潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患や多くの自己免疫疾患は、治療戦略はもとより、症状 の発症・増悪メカニズムについても詳細がわかっていません。今回の発見に基づき、

JunB のはたらきや IL-2 シグナルの強さを調節するというアプローチにより、症状を 緩和するという新しい治療法の可能性が拓けました。

◆ 発表概要: Treg 細胞は不適切な免疫反応の抑制に不可欠ですが、この細胞が生体内でどのように生 成されるかについては十分にわかっていませんでした。今回、遺伝子改変マウスを用いた 解析を中心に、JunBという転写因子が IL-2のシグナルの活性化を通じて Treg 細胞の分化 を誘導することを明らかにしました。 今回の成果を基にして、JunBのはたらきや IL-2シグナルの調節を通じて Treg 細胞を増 やすことにより、炎症性疾患を克服するという新たな治療法の可能性が示されました。

◆ 発表内容: 免疫系は、様々な病原体に対する防御に不可欠ですが、その一方で、不適切に活性化す

ると自分自身を攻撃して自己免疫疾患を招くため、正しく制御されなければいけません。 制御性 T細胞(Treg 細胞)(注 1)は、免疫系の過剰な活性化を防ぐ重要な役割を担ってお り、この細胞の機能が低下しているマウスでは、様々な自己免疫疾患を発症しやすくなっ

たり、炎症性疾患の症状が悪化することがわかっています。しかし、体の中に十分な数の Treg 細胞を準備する仕組みについては未解明な点が多く残されています。今回、私たちの 研究グループは、JunB(注 2)という転写因子に着目し、この因子が IL-2 というサイトカ インのはたらきを通じて Treg 細胞の数を保つのに重要であることを明らかにしました。 ヒトの潰瘍性大腸炎の動物疾患モデルの一つに、デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium:DSS)という化合物を投与して誘導する大腸炎モデルがあります(注 3)。 まず、本研究グループが JunB の欠損マウスにこの大腸炎モデルを誘導したところ、野生 型マウスと比較して症状が悪化することがわかりました(図 1)。JunB 欠損マウスの組織 を解析してみると Treg 細胞の数が減少していたので、このことが大腸炎の重篤化の原因だ と考えられました。次に研究グループは、Treg 細胞の分化に IL-2(注 4)のシグナルが必 要である点に着目して解析を進め、JunB を欠損する T 細胞では、IL-2 の受容体の発現が 低いことに加え、自分自身が放出する IL-2 の量も少ないために Treg 細胞への分化が十分 に誘導されないことを突き止めました(図 2)。 いくつかのヒト自己免疫疾患に対して、IL-2 を投与する治療法の可能性が試みられてい ますが、IL-2 シグナルが低下しているマウスを用いた今回の研究結果が、炎症性疾患に対 する新たな治療プロトコールの確立につながることが期待されます。

◆ 発表雑誌: 雑誌名:「Mucosal Immunology」

論文タイトル:JunB plays a crucial role in development of regulatory T cells by promoting IL-2 signaling. 著者:Takaharu Katagiri, Soh Yamazaki*, Yuto Fukui, Kotaro Aoki, Hideo Yagita, Takashi Nishina, Tetuo Mikami, Sayaka Katagiri, Ayako Shiraishi, Soichiro Kimura, Kazuhiro Tateda, Hideki Sumimoto, Shogo Endo, Hideto Kameda, Hiroyasu Nakano* (*責任筆者) DOI番号:10.1038/s41385-019-0182-0

◆ 用語解説: (注 1)制御性 T細胞(Treg 細胞):ヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)の一種であり、様々 な免疫応答を抑制することにより自己免疫疾患の発症や過剰な免疫応答を防ぐ。

(注 2) JunB:DNA に結合して遺伝子の発現を調節する「転写因子」と呼ばれるタンパ ク質の一つである。発生や、骨、皮膚の恒常性維持に関与することが以前から知 られていたが、ヘルパーT細胞での JunBの役割については長らく不明であった。

(注 3) DSS誘導性大腸炎モデル:デキストラン硫酸ナトリウム(Dextran sulfate sodium: DSS)を含む飲料水を飲んだマウスでは、大腸上皮細胞の障害のために炎症が惹 起され、体重減少や大腸の短小化、腸管上皮下層での浮腫などが認められるよう になる。症状がヒトの潰瘍性大腸炎に似ていることや、症状を再現性良く誘導で きることから、大腸炎の動物モデルとして広く用いられている。

(注 4)インターロイキン-2(IL-2):リンパ球などの産生細胞から細胞外へ放出され、標 的細胞に作用してその機能を変化させる「サイトカイン」と呼ばれるタンパク質 の一つである。以前は免疫反応を活性化する因子だと考えられていたが、近年は 免疫応答の抑制に重要なTreg細胞の分化誘導に必須なサイトカインとして注目さ れている。


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