News Release

触媒反応の「合わせ技」で海洋天然物を短工程で合成

生理活性を示す天然アルカロイドの効率的な合成が可

Peer-Reviewed Publication

Institute of Transformative Bio-Molecules (ITbM), Nagoya University

Synthesis of Marine Alkaloid, Dictyodendrin, Using Selective C-H Functionalization Strategies

image: This figure shows the synthesis of marine alkaloid, dictyodendrin, using selective C-H functionalization strategies. view more 

Credit: ITbM, Nagoya University

このニュースリリースは、英語で提供されています。

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)の伊丹健一郎教授、山口潤一郎准教授、山口敦史(大学院生)および米国エモリー大学のヒュー・デイビス(Huw Davies)教授、ケーティ・チェピーガ(Katie Chepiga、大学院生)らは、それぞれの研究室で独自に開発した触媒反応を組み合わせることで、ガンやアルツハイマー症に対して有効性を示す海洋天然物の効率的な合成に成功しました。これまでよりも短い工程数で合成できる新手法を開発したことで、今後の医薬としての可能性を模索する研究に貢献していくことが期待されます。本研究成果は、アメリカ化学会誌のオンライン版に2015年1月6日に公開されました。

 ディクティオデンドリン類は、2003年に海綿から単離された海洋天然物であり、これまでにいくつかの類縁体において顕著な生理活性が報告されてきました。今回、伊丹教授らはエモリー大学のデイビス教授のチームとともに、抗がん作用を示すディクティオデンドリンAおよびアルツハイマー病に対して有効性を示すディクティオデンドリンFの効率的な合成法を確立しました。伊丹教授およびデイビス教授それぞれが開発した選択的C-H官能基化反応を応用することで、従来の方法よりも短い工程数でディクティオデンドリンAおよびFを得ることに成功しました。

 ディクティオデンドリンには、窒素を含む5員環の芳香族化合物(ピロール)のそれぞれの頂点に4つの異なる分子が結合しています(図1)。伊丹教授らはディクティオデンドリン類の中心構造にあたるピロールを出発物質として、ピロールがもつ4つの炭素(C)に結合している水素(H)を芳香族化合物で1つずつ置換しようと考えました。しかしながら、目的とする芳香族化合物を特定の位置に順序よく導入するためには、高い選択性および反応性をもつ触媒を適切な順番で用いることが必須でした。まず、伊丹教授のチームが、独自のロジウム触媒を使用し位置選択的なC-H官能基化反応によって最初の芳香族化合物を導入しました。

 次に、デイビス教授のチームが開発したロジウム触媒でC-H挿入反応を行うことで、一斉に2つの分子を導入することに成功しました。最後に、2010年にノーベル賞を受賞した鈴木−宮浦カップリング反応を用いて4つ目の置換反応を行い、ディクティオデンドリンの主要骨格の合成を成し遂げました。今回の手法により、これまで21工程要していたディクティオデンドリンAを15工程へと短縮することに成功しました。

 複雑な構造のディクティオデンドリン類の全合成を達成するためには、多くの触媒や反応条件のスクリーニングが必須です。膨大な数の実験の末に、伊丹教授およびデイビス教授がそれぞれ開発した触媒がディクティオデンドリン類の合成に有効であることを見出しました。選択的C-H官能基化反応を連続して行うことで、今後、ピロールをはじめとした含窒素天然有機化合物(アルカロイド類)の効率的な全合成への応用が期待されます。本研究成果は、アメリカ化学会誌「ジャーナル・オフ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ」のオンライン版で公開されました。

###

【掲載雑誌、論文名、著者】

掲載雑誌:Journal of the American Chemical Society       
(ジャーナル・オフ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ)

論文名:"Concise Syntheses of Dictyodendrins A and F by a Sequential C-H Functionalization Strategy"     
(連続的C-H官能基化反応によるディクティオデンドリンAおよびFの効率的な合成)

著者:Atsushi D. Yamaguchi, Kathryn M. Chepiga, Junichiro Yamaguchi, Kenichiro Itami, and Huw M. L. Davies           
(山口敦史、キャサリン・チェピーガ、山口潤一郎、伊丹健一郎、ヒュー・デイビス)

論文掲載日:2015年1月6日

DOI: 10.1021/ja512059d (http://doi.org/10.1021/ja512059d)

【本件お問い合わせ先】

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) 伊丹 健一郎
TEL/FAX: +81-52-788-6098
E-mail: itami@chem.nagoya-u.ac.jp

リサーチプロモーションディビジョン 宮﨑 亜矢子・佐藤 綾人
TEL: +81-52-789-4999 FAX: +81-52-789-3240
E-mail: press@itbm.nagoya-u.ac.jp

名古屋大学広報室
TEL: +81-52-789-2016 FAX: +81-52-788-6272
E-mail: kouho@adm.nagoya-u.ac.jp


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.