News Release

気候変動により危機に瀕する大型脊椎動物を「ポケモン」から考察

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

An Artistic Depiction of a Kangaskhan

image: An artistic depiction of a kangaskhan - a two-meter-tall Pokémon endemic to Australia. view more 

Credit: Image by Katerina Zapfe

  • 「ポケモンGO」に登場するポケモン「ガルーラ」は、オーストラリア限定のポケモン。ポケモントレーナーは、彼らその「ガルーラ」を密猟してバトルで戦わせることがよくある。
  • 本研究では、実際の研究で使われるいくつかの種分布モデルのアルゴリズムを用い、既存の人為的影響に加えて気候変動が起こると、将来的にガルーラの分布にどのような影響が出るかを予測した。
  • 本研究はゲームに登場する架空の生物ガルーラを扱ったものではあるが、実際の研究で一般的に使用されている種分布モデルの偏りを測定する方法を発見し、一部のモデルでは、結果がデータにまったく影響されないほど偏っていることがわかった。
  • この結果を過去に発表された数百種のオーストラリアの哺乳類のモデルと比較したところ、同様の偏りがあることがわかった。
  • 本研究により、一般的な種分布モデルに存在する具体的な問題点が浮き彫りになり、将来的に種分布モデルを改良するための新たな統計ツールとなる可能性がある。

ガルーラは、高さ2メートルのオーストラリア限定のポケモンです。市街地などでよく見かけますが、基本的な生態や広範囲での分布については十分な情報がありません。彼らについて知られている情報は、一般の人々、特に無許可のブリーダーからの逸話に基づいており、こうしたブリーダーの多くは科学研究の教育を受けているとは限りません。現在、ガルーラは成体やタマゴの密猟が頻繁に行われているため、絶滅の危機に瀕していると考えられています。この密猟は、主にバトルで戦わせるために行われています。このような密猟の影響に加え、今後数十年の間にオーストラリアに大きな影響を及ぼすと予測される気候変動の影響により、この大きなポケモン種の先行きは暗いものとなっています。

このたび、沖縄科学技術大学院大学(OIST)生物多様性・複雑性ユニットの研究者らは、気候変動が、ガルーラに適した生息地の存続にどのような影響を与えるかを綿密に調査しました。この研究成果は、本日、Methods in Ecology and Evolution誌に掲載されました。

OISTに来る前にオーストラリアで研究していた、本論文の筆頭著者であるダン・ウォーレン博士は、次のように述べています。「ガルーラは、晴れ時々曇りの天気を好むようだということ以外に、どのような気候を好むのかについてはほとんど知られていません。そのため、環境変化に対するガルーラの反応や、気候変動と密猟の組み合わせが種の長期的な生存にどのような影響を与えるかを推定することが困難です。今回の研究では、いくつかの有名なモデリング手法を用いて、ガルーラが実際にどの程度の脅威にさらされているのかを把握しました。」

研究者らは、ガルーラを利用しようとするプレイヤーやプロトレーナーたちが最初に記録したデータをもとに、この種の将来の見通しを明らかにしようと試みました。もちろん、それには種分布モデルを使用しました。種分布モデルとは、降雨量、湿度、気温、植生などの環境因子の変化に応じて、ある種に適した生息地の範囲がどのように変化するかを予測するために科学者がよく用いる方法です。

6つのモデルを用いて比較した結果は、使用したアルゴリズムによって、各モデルが予測したガルーラの将来は異なるものでした。3つのモデルでは、生息地としての適性が低下するという予測が出ましたが、その程度については大きく異なっていました。他の2つのモデルでは、予測した気候に応じて結果が変わり、6つ目のモデルでは生息地の適性がむしろ向上するという予測が出ました。こうした結果は、政策立案者などの関係者たちに、既存モデルの不確実性を考慮した上で、ガルーラや他の生物種の未来を守るために行動すべきだという示唆を与えてくれるものでしょう。

本研究では、ガルーラの長期的な生存をめぐる不確実性が明らかになっただけでなく、種分布モデルに伴う偏りを計算する方法についても提示しました。各モデルには、モデル化の過程で行う選択に応じて、一定の偏りと不確実性が生じます。例えば、気候変動の影響を予測する場合、将来の二酸化炭素排出量を考慮する必要がありますが、これは人間の行動に基づいているため、正確に推定するのは難しいことです。これらの推定値の違いは、モデル化の過程で他の要因と相互に影響し合い、気候変動が絶滅危惧種に与える影響の予測に偏りを生じさせます。 科学者たちはこのような偏りが存在することは知っていますが、これまではその偏りを測定する方法がありませんでした。

「私たちは、簡単な統計上のテストで偏りの度合いを判断できることに気づきました。そうすることで、データが結果にあまり影響を与えないほど偏ったモデルもあることがわかったのです。そうしたモデルは、データが何を示しているかにかかわらず、研究デザインに基づいて結論が出されているのです」とウォーレン博士は説明します。

同研究では、ガルーラに加えて、オーストラリアの哺乳類220種のモデルを構築した先行研究や、モデルが種の環境ストレス耐性をどの程度適切に推定しているかを理解するために人工生物を用いて行った研究を再検討し、これらのモデルに同様の偏りがあることを明らかにしました。研究チームは、このような偏りを明らかにすることで、ガルーラや世界の生物多様性の未来をより確かなものにしたいと考えています。

奇妙なものに思えるかもしれませんが、ポケモンのキャラクターを研究に使おうと思ったのは、より多くの人に興味を持ってもらえるのではないかと考えたためです。そして、研究で明らかになった結果は、他の研究者が種分布をより正確に推定するのに役立つとウォーレン博士は強調しています。

「少しふざけた研究と思われるかもしれませんが、かっこいい科学だと思います。様々な立場の人たちが、気候変動の影響から病気や外来種の拡散まで、多くの重要な生態学的現象を予測するためにこれらのモデルを使用しているので、そのモデルに偏りがあるという可能性をしっかりと理解することが重要です。この手法を使ってできることをまだ深く掘り下げていませんが、いろいろなことに使えるツールになると思います。」

最後にウォーレン博士は、ポケモンを取り巻く文化とその背後にある人々の意識について注意を促しています。ポケモンGOでは、「全ポケモンをゲットしよう」というキャッチフレーズのもと「乱獲」が行われていて、レアなポケモンほど価値が上がります。プレイヤー達は、価値が上がったレアなポケモンをゲットするために、益々乱獲に走る、といった具合です。これは、現実世界では絶滅の危機に瀕している大型マグロのようなものです。同研究では気候変動に焦点を当てましたが、多くのポケモン(そして世界中の多くの種)にとっては、乱獲も大きな脅威です」と述べています。

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