News Release

皮膚ガンの原因遺伝子を特定!

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

The Novel Fusion Gene NUP160-SLC43A3

image: This fusion gene was found in 9 out of a sample of 25 skin cancer patients. view more 

Credit: Associate Professor Masatoshi Jinnin

皮膚ガンにはいくつかのタイプがありますが、血管肉腫は血管やリンパ管の細胞から発生し、皮膚ガンの中でもとくに見逃されやすくかつ治療が効きづらいため、もっとも予後の悪いガンの一つとして知られています。

 ガンの主な原因として、いわゆるガン遺伝子の変異が知られています。熊本大学生命科学研究部・皮膚病態治療再建学分野の神人准教授らの研究チームは、血管肉腫では通常の遺伝子変異とは異なり、NUP160とSLC43A3という2つの別々の遺伝子が異常に融合していることを発見し、この融合遺伝子がガンの発生に関わっていることを北里大学との共同研究でつきとめました。

この融合遺伝子の発見により、皮膚ガンの原因の一端が解明されました。また、将来的に診断や治療を大きく進歩させる可能性を示しています。

本研究成果は、科学雑誌Cancer Researchに米国(EDT)時間の2015年11月1日(日)00:05 ET【日本時間の11月1日(日)13:05】に掲載されます。

論文タイトル

NUP160-SLC43A3 is a novel recurrent fusion oncogene in angiosarcoma

著者名

Naoki Shimozono1, Masatoshi Jinnin1, Mamiko Masuzawa2, Mikio Masuzawa3, Zhongzhi Wang1, Ayaka Hirano1, Yukiko Tomizawa1, Tomomi
Etoh-Kira1, Ikko Kajihara1, Miho Harada1, Satoshi Fukushima1, Hironobu Ihn1

所属

1熊本大学 生命科学研究部・皮膚病態治療再建学分野
2北里大学 皮膚科
3北里大学 医療衛生学部臨床検査学

掲載雑誌

Cancer Research

(説明)

皮膚ガンは、他の内臓のガンと同じく健康を脅かすのはもちろん、見た目にも影響しやすいため、私たちの生活に深く関わる病気です。いくつかの種類がありますが、中でも血管肉腫は血管やリンパ管の細胞から発生するタイプです。皮膚上では年配の方の頭部にできることが多いのですが、一見できものに見えないことがあり見逃されがちです。にもかかわらず非常に進行が早く、リンパ節や内臓に転移していきます。従来、放射線療法、化学療法あるいは手術療法が行われてきましたが、血管肉腫はこれらの治療が効きづらく、根治するのが難しい病気です。このように診断や治療の難しさが相まって、血管肉腫は最も予後の悪いガンの一つとしてよく知られており、高齢化社会において新しい診断法と治療法の開発の必要性が高まっています。

ガンの主な原因として、ガン遺伝子の変異(1遺伝子中の塩基配列の一部が抜けたり入れ替わったりする)があります(図1)。最近、他のガンにおいてはガン遺伝子の変異を検出して診断に役立てたり、変異したガン遺伝子に対する治療が目覚ましい効果を発揮することが明らかになったりしていますが、皮膚ガンのガン遺伝子の多くは未だよくわかっていないため、私たちはその研究を続けていました。

その結果私たちは、血管肉腫のガン細胞では通常の遺伝子変異とは異なり、NUP160とSLC43A3という本来は別々の遺伝子が異常に融合してしまっていることをトランスクリプトーム解析※という手法を用いて初めて発見しました(図2)。この「融合遺伝子」は染色体の一部が切り取られ、別の染色体にくっついた結果2つの遺伝子が融合して作られると考えられています(図1)。融合遺伝子NUP160-SLC43A3は25人の患者さんのうち9人に見られ、融合遺伝子が陰性の患者さんと比べて、発症から病院を受診するまでの期間が短い、つまりガンの進行が早い可能性が示されました。他の種類の皮膚ガンではこの融合遺伝子は検出されませんでした。また融合遺伝子を導入した細胞をマウスの皮膚に注射したところガン化した(図3)ため、ガンの発生に関係することを証明することができました。逆に融合遺伝子を血管肉腫の細胞から除去すると、血管肉腫の細胞の数が減少したため、治療につながる可能性も確認することができました。

融合遺伝子はこれまで白血病・悪性リンパ腫を含むいくつかのガンで発見されています。例えば肺ガンの一部では融合遺伝子EML4-ALKが出現しますが、この融合遺伝子がガンの直接の原因となっていると考えられています。さらにEML4-ALKは肺ガン以外の病気では出現しないため、この融合遺伝子の検出により高精度・高感度の診断が可能となります。すでに遺伝子検査が保険適応となっており、EML4-ALK陽性の肺ガンに対してはこの融合遺伝子の働きを阻害する薬剤が劇的な治療効果を発揮します。同様に、今回の血管肉腫における融合遺伝子の発見は、皮膚ガンの原因の解明のみならず近い将来簡単な診断、進行の速さの予測、そして特効薬の開発にも役立つ可能性があるため、医学的に大変意義深いと考えています。

※トランスクリプトーム解析  

全ての遺伝子から転写されるRNA(転写物:トランスクリプト)の塩基配列を一度に解読する手法。これにより、遺伝子配列の変異や異常な融合などが一度に全遺伝子について調べられる。

 トランスクリプト(転写物)+オーム(全て)=トランスクリプトーム

###


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.