News Release

高温プラズマの中の突発的揺らぎ

現象の発見と理論予測

Peer-Reviewed Publication

National Institutes of Natural Sciences

'Subcritical Instability'

image: Figure 2: This shows the restoring force against the growth of fluctuations. When the amplitude is lower than the threshold value, the amplitude approaches zero and is stable (black). Separating from the center, when the amplitude exceeds the threshold value, the amplitude abruptly grows red. view more 

Credit: National Institutes of Natural Sciences

自然科学研究機構 核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD)で生成される1億度に及ぶ高温プラズマの内部を計測するために、高エネルギー重イオンビームを用いた計測装置を開発し、九州大学応用力学研究所と共同研究を行い、プラズマ中に突発的に揺らぎが発生する新しい現象を発見し、そのメカニズムを解明しました。この研究成果をまとめた2編の論文、"Strong destabilization of stable modes with a half-frequency associated with chirping geodesic acoustic modes in the Large Helical Device" 及び "Nonlinear excitation of subcritical instabilities in a toroidal plasma" が、1月8日付けの米国物理学会が発行する科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

【研究の背景】

核融合炉の実現を目指して、1億度以上の高温プラズマを効率よく発生させるための研究が世界中で行われています。閉じ込められたプラズマの中では時々、突然大きな揺らぎが発生し、プラズマが逃げだしてしまう現象が発生することがあります。このような現象は、核融合炉の性能を左右し、機器にダメージを与える危険があるので、その発生メカニズムを明らかにし、発生を予言し回避することが重要な課題です。一方、宇宙プラズマにおいても似たような突発的現象が発生しています。太陽フレアの発生などがよく知られており、突発的な発生を予言することが重要と考えられています。しかし、いずれの場合も、なぜ突然、大規模な現象が発生するのかはよく分かっておらず、現在でも、未解決の問題となっています。

【研究成果とその意義】

核融合科学研究所の井戸毅・准教授らの研究グループは、核融合科学究所の大型ヘリカル装置LHDにおいて生成される1億℃に及ぶ高温プラズマの内部で発生する現象を観測するために、高エネルギーの重イオンを用いる計測器(重イオンビームプローブ(*1))を開発しました。これを用いてプラズマ内部の揺らぎの計測を行ったところ、通常は安定で発生しないと考えられる揺らぎが、突発的に大きな振幅を伴って発生するという新しい現象を発見しました(図1左)。実験データを詳しく調べると、この突発的な揺らぎの発生より前に別の揺らぎが発生しており、それがきっかけとなって突発的な大振幅の揺らぎが発生していることを示す結果が得られました。

九州大学応用力学研究所の伊藤早苗教授らの理論グループとの共同研究により、この現象を説明するための新しい理論モデルを構築し、数値シミュレーションで確認を行ったところ、実験結果を再現することができました(図1右)。これにより、今回の研究で、これまで知られていなかった突発的な揺らぎの発生現象を発見し、そのメカニズムを解明し,発生を予言することに成功したと結論付けることが出来ます。

本研究結果の重要な点は、安定だと考えられていた揺らぎが、外部から与えられるきっかけがあるレベルを超えると、突発的で大振幅の揺らぎの発生に至るという物理メカニズムが高温プラズマ中に存在することを実証したこと、発生条件を明らかにしたことです。このような性質を持つ現象は亜臨界不安定性(図2)と呼ばれています。

突発的に大振幅の揺らぎが発生する現象の例として、核融合を目指した磁場閉じ込めプラズマ中では鋸歯状振動(*2)やディスラプション(*3)と呼ばれるプラズマの性能を左右するような崩壊現象、宇宙プラズマにおいては太陽フレアの爆発的な発生などがありますが、そこで見られる突発現象の発生メカニズムは長く議論されてきた未解決の問題です。このような突発的現象を引き起こす候補として亜臨界不安定性の存在が理論的に指摘されていました。本研究により初めてプラズマ内の測地線音波*4)にそのような不安定性が存在することを実証し、この現象の発生を予言することに成功しました。これらの成果は、今後、広く観察されている多くの突発現象の理解を進める上での指針を与えることになると期待されます。

今回発見された揺らぎの突発的発生は、プラズマの加熱に寄与する可能性が指摘されています。更に、閉じ込められたプラズマにおいてプラズマの突発現象の発生メカニズムを明らかにし発生を予言できる本研究は、核融合炉のダメージを回避したり磁気嵐の被害を抑制出来る等、今後の核融合研究開発や科学技術開発に大きな寄与を持つと考えられます。

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【用語解説】

(*1)重イオンビームプローブ:
磁場で閉じ込められた高温プラズマ中の電位や密度の揺らぎを測定するための計測器。1億度に及ぶプラズマの電位を計測する際、テスターのような固体の探針を入れることができない。そこで固体の代わりに重イオンを入射する。プラズマ中を通過して出てきた重イオンのエネルギーの変化から電位を、検出される重イオンの個数の変化からプラズマの密度の情報を同時に得ることが出来る。

(*2)鋸歯状振動:
ドーナツ型のプラズマ内部において、温度分布、密度分布がほぼ周期的に崩壊と再生を繰り返す現象。プラズマ中心部の温度やX線の放射強度を測定すると、緩やかな上昇と急激な減少を繰り返しており、信号の波形がのこぎりの刃のように見えるため、この名前が付いている。

(*3)ディスラプション:
核融合プラズマの閉じ込め方式の一つであるトカマクにおいて見られる崩壊現象であり、1000分の1秒程度の短時間にプラズマが消滅する。この時放出される熱エネルギーや電磁エネルギーが装置自体に損傷を与える可能性があり、トカマク型核融合炉においてはこのような崩壊現象が発生しない制御法の確立が重要である。

(*4) 測地線音波(Geodesic acoustic mode):
飛行機が目的地迄最短距離で飛ぼうとする時、大圏航路を取ります。大圏航路の道筋は、「測地線」とも呼ばれ、地球儀の上で離れた点を「まっすぐ」結ぶ曲線です。プラズマがドーナツ形状をしているため、プラズマを閉じ込める磁力線は、測地線になりません。プラズマが帯電すると、磁力線と垂直に運動しますが、磁力線が測地線でないので、プラズマは圧縮されたり膨張したりします。その圧縮・膨張に伴う振動が「測地線音波」と呼ばれるものです。

この測地線音波が発生すると、プラズマの乱流を抑え、また、核融合反応で生まれるアルファ粒子のエネルギーを燃料に伝える等、様々な可能性があります。核融合にとって重要な振動と考えられています。

【本件のお問い合せ先】

核融合科学研究所
ヘリカル研究部・高温プラズマ物理研究系・准教授 
井戸 毅(いど たけし)  
電話:0572-58-2179、 E-mail:ido.takeshi@LHD.nifs.ac.jp

九州大学   
極限プラズマ研究連携セン
ター/応用力学研究所 センター長・教授
伊藤早苗(いとう さなえ)  
電話: 092-583-7721、E-mail: s-iitoh@riam.kyushu-u.ac.jp


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