News Release

CRISPR/Cas9とナノミセルを用いた脳内ゲノム編集~マウス脳実質細胞での効率的なゲノム編集に成功

Peer-Reviewed Publication

Innovation Center of NanoMedicine

mRNAナノミセルを使った脳内ゲノム編集

image: mRNAを基盤としたCRISPR/Cas9の送達で、様々な脳実質細胞に対してゲノム編集 世界初! view more 

Credit: 2021 Innovation Center of NanoMedicine

公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(センター長:片岡一則、所在地:川崎市川崎区、略称:iCONM)の副主幹研究員、内田智士博士(京都府立医科大学准教授)らの研究グループは、2020年ノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9の送達手法を開発し、マウス脳内での効率的なゲノム編集に成功しました。そこでは、臨床応用可能な安全性を得るため、新型コロナウイルス感染症の予防ワクチンとしても注目されているメッセンジャーRNA (mRNA)を用いました。その結果は、ハンチントン病(舞踏病)のような遺伝性の難治性脳疾患や、アルツハイマー型認知症などの長期に渡り病勢進行するような脳疾患に対して、新たな治療の選択肢を与えることが期待されます。

遺伝子の異常で、有害なタンパク質ができたり、逆に必要なタンパク質ができなくなるような先天性の遺伝性疾患は、Unmet Medical Needs の典型的なものですが、遺伝子そのものを治療する遺伝子治療が現実的なものとなり期待が寄せられています。その中で、CRISPR/Cas9 は標的となる遺伝子を簡便に編集できるツールとして脚光を浴び、今後、様々な難病治療への応用が期待できます。しかしながら、Cas9 タンパク質の標的組織への送達は容易でなく、また、その抗体産生のリスクもあることから、Cas9 タンパクをコードする mRNA と遺伝子編集部位を特定するガイドRNA (gRNA) を当研究センター独自の技術である高分子ナノミセルに搭載させて脳実質細胞へ送達し発現させる研究を進めてきました。その結果、効率よく Cas9タンパク質を脳内で発現することができ、ゲノム編集を簡便に行えることが実証されたことで、登壇者のひとり、Saed Abbasi 研究員を筆頭著者として、国際的な学術誌J. Controlled Release(IF = 7.727)に3/4 論文掲載されましたので報道発表させて頂きます。

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掲載論文:“Co-encapsulation of Cas9 mRNA and guide RNA in polyplex micelles enables genome editing in mouse brain”, Saed Abbasi, Satoshi Uchida et al., J. Controlled Release, 332, 260-268 (2021).
https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2021.02.026

本研究では、遺伝子(ゲノム)の編集が起きると赤色蛍光タンパク質が作られるように遺伝子改変したマウスを用いて、脳実質細胞内でのゲノム編集効果を評価しました。Cas9 mRNA は4,500塩基からなり、100塩基程度の長さしかない gRNA とはサイズが大きく異なります。それぞれの mRNA を別々のナノミセルに搭載させると、gRNA の一部がミセルから漏出する現象が観察されました。そこで、同一のナノミセルに両者を載せて脳内に投与したところ、下図に示すように赤色蛍光が広範囲で観察できゲノム編集が確実に起きていることを実証しました。細胞別に調べると、神経細胞(ニューロン)の他に、アストロサイトやミクログリアにおいてもゲノム編集が行われていることがわかり、広範囲の細胞種に対して効果的に働くことがわかりました。RNAを基盤としたCRISPR/Cas9送達で、脳実質細胞のゲノム編集に成功した世界で初めての報告です。

公益財団法人川崎市産業振興財団について  

産業の空洞化と需要構造の変化に対処する目的で、川崎市の100%出捐により昭和63年に設立されました。市場開拓、研究開発型企業への脱皮、それを支える技術力の養成、人材の育成、市場ニーズの把握等をより高次に実現するため、川崎市産業振興会館の機能を活用し、地域産業情報の交流促進、研究開発機構の創設による技術の高度化と企業交流、研修会等による創造性豊かな人材の育成、展示事業による販路拡大等の事業を推進し、地域経済の活性化に寄与しています。

https://www.kawasaki-net.ne.jp/

ナノ医療イノベーションセンターについて  

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は、キングスカイフロントにおけるライフサイエンス分野の拠点形成の核となる先導的な施設として、川崎市の依頼により、公益財団法人川崎市産業振興財団が、事業者兼提案者として国の施策を活用し、平成27年4月より運営を開始しました。有機合成・微細加工から前臨床試験までの研究開発を一気通貫で行うことが可能な最先端の設備と 実験機器を備え、産学官・医工連携によるオープンイノベーションを推進することを目的に設計された、世界でも類を見ない非常にユニークな研究施設です。  

https://iconm.kawasaki-net.ne.jp/

センター・オブ・イノベーション (COI) プログラムについて  

COIプログラムは、文部科学省・科学技術振興機構の下で進められている研究開発プログラムで、将来社会に潜在する課題から、現在取り組むべき異分野融合・連携型の研究開発テーマをバックキャストして設定しています。企業や大学だけでは実現できないイノベーションを産学連携で実現する拠点が全国に18か所設立されました。川崎拠点は、その中で唯一、大学でなく地方自治体が管理するCOI拠点であり、そこで実施する研究プロジェクトを、COINS (Center of Open Innovation Network for Smart Health) と呼んでいます。  

COI: https://www.jst.go.jp/coi/ COINS : https://coins.kawasaki-net.ne.jp/

京都府立医科大学について  

京都府立医科大学は、明治5年(1872年)に粟田口の青蓮院境内に設立された療病院をルーツとし、令和4年(2022年)に創立150周年を迎えます。医学および看護学に関する知識、技能の教育とともに、研究および診療という基本を踏まえつつ、「世界トップレベルの医学を地域へ」という理念のもと、高度な教育、研究成果および医療を社会に還元しています。

https://www.kpu-m.ac.jp/

2021年3月10日


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