News Release

レーザー照射による骨形成抑制遺伝子の抑制作用を発見

レーザー照射が骨細胞へ関与、骨疾患への治療応用に期待

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

The effect of Er:YAG laser irradiation on the bone tissue.

image: Laser irradiation causes photomechanical response, photobiological activation reaction, and photochemical response in the various tissues and cells. Downregulation of Sost expression in the bone tissue was observed after Er:YAG laser bone ablation. Because sclerostin (coded by Sost) suppressed bone formation by inhibiting canonical Wnt signaling pathway, there is a possibility that Er:YAG laser irradiation to the bone enhances bone formation. view more 

Credit: Department of Periodontology,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病分野の大杉勇人医員、片桐さやか講師、岩田隆紀主任教授、青木章担当教授の研究グループは、同大学難治疾患研究所エピジェネティクス分野の北澤萌恵助教、松沢歩助教、東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部の廣田朝光講師、明海大学歯学部機能保存回復学講座保存治療学分野の横瀬敏志教授、門倉弘志講師との共同研究で、Er:YAGレーザー照射※2が骨形成抑制因子であるスクレロスチンを抑制することを証明しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金およびアメリカレーザー歯学会研究助成金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌The FASEB Journalに、2020年8月5日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】  地球上のあらゆる生物には、「光」を酸素や水と同じように利用したり、取り入れたりする数多くの器官や仕組みが存在しています。レーザーは人工的につくられた光で、私達の生活に幅広く応用されており、医療にも用いられています。今回使用したEr:YAGレーザーは、水への吸収が強く、発熱が少ないので、硬組織・軟組織の切削に優れています。歯科治療においても虫歯治療や歯周治療、インプラント治療に用いられ、治療の有効性についても報告されています。  骨細胞から分泌されるスクレロスチン(遺伝子名:Sost)は古典的Wntシグナル伝達経路の細胞外抑制因子として知られています。スクレロスチンを阻害することで、骨形成、骨量および骨強度の増加をもたらします。スクレロスチンを阻害する抗スクレロスチン抗体は、骨粗鬆症治療薬へも応用され注目されているタンパク質です。  研究グループは、レーザー照射による骨切削は従来の機械的切削と比較して新生骨形成に優れていることを報告してきましたが、そのメカニズムはいまだ不明でした。

【研究成果の概要】  本研究グループは、骨切削後の遺伝子変化について評価するため、ラットの頭頂骨に対してレーザー照射による骨切削とスチールバーを用いた機械的骨切削を行いました。処置後6、24、72時間で切削骨を採取し、DNAマイクロアレイ法※3を用いて遺伝子発現の網羅的かつ経時的な解析を行った結果、6時間後のレーザー切削骨とバー切削骨において発現変動遺伝子を10個検出しました。その中でレーザー切削骨ではSostの発現が減少していることが示され、Sostの減少をqPCR法※4で検証しました。また、免疫組織化学染色においてもバー切削骨よりもレーザー照射骨でスクレロスチンの発現が低いことを観察しました。切削後24時間では、レーザー切削と比較してバー切削において炎症関連の遺伝子群が上昇することを確認しました。  次に、骨細胞様細胞に対してEr:YAGレーザー照射を行った結果、照射6時間後ではレーザー照射群においてSostの抑制効果が示されました。照射24時間後の細胞培養上清からもELISA法※5を用いてスクレロスチンの発現が減少していることを見出しました。

【研究成果の意義】  レーザー照射による骨切削はバー切削よりも炎症が生じにくいことをDNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子網羅解析で証明しました。またレーザー照射により骨組織、骨細胞様細胞において骨形成抑制因子であるスクレロスチンが減少することを見出しました。Er:YAGレーザー照射は骨組織内の骨細胞を刺激しスクレロスチンを減少させることで、新生骨形成に有利な反応を引き起こす可能性が示唆されました。今後、骨疾患へのレーザー治療の応用が期待されます。

【用語解説】 ※1 スクレロスチン   骨細胞においてSost遺伝子の転写・翻訳により合成される分泌タンパク。 ※2 Er:YAGレーザー照射   水への吸収が強く、発熱が少ないので、硬組織・軟組織の切削に優れているレーザー照射法。 ※3 DNAマイクロアレイ法   細胞内にある数万個の遺伝子発現量を一度に解析できる手法。 ※4 qPCR法   酵素を利用して、目的の遺伝子を増幅させる方法。 ※5 ELISA法   試料中に含まれる目的の抗原を特異抗体で捕捉し、酵素反応を利用して検出・定量する方法。

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