News Release

XIAP欠損症における炎症性腸疾患と腸内細菌叢の異常が造血細胞移植により改善

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Twenty-six patients with XIAP deficiency underwent HCT by the end of March 2020, and 22 (84.6%) survived. IBD improved remarkably after HCT. Gut microbiota indicated dysbiosis before HCT; however, it was improved to resemble that of the healthy family members after HCT. This study revealed that HCT has a favorable outcome for XIAP deficiency. HCT rescues gut inflammation and dysbiosis in patients with XIAP deficiency. view more 

Credit: Department of Child Health and Development ,TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和寄附講座教授、発生発達病態学分野の小野真太郎大学院生、および森尾友宏教授の研究グループは、慶応大学微生物免疫学教室の本田賢也教授のグループならびに全国の諸施設との共同研究で、XIAP欠損症に合併した炎症性腸疾患では、腸内細菌叢の異常が発症に関与している可能性を示し、この異常が造血細胞移植で改善することを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびに土田直樹研究助成金などの支援のもとで行われたもので、その研究成果は国際科学誌Journal of Allergy and Clinical Immunology In Practiceに、2021年7月8日にオンライン版で発表されました。

【研究の背景】
 X-linked inhibitor of apoptosis protein (XIAP)欠損症※1は稀な先天性免疫異常症であり、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)※2の反復や難治性の炎症性腸疾患(IBD)※3を特徴とします。XIAP欠損症の唯一の根治治療法は同種造血細胞移植(HCT) ※4ですが、国際的な移植成績は芳しくなく、改善が急がれています。また、XIAP欠損症に合併したIBDは幼少期に発症し、症状も重篤である一方、病態は依然として不明な点が多く、有効な治療法が限られているといった問題があります。

【研究成果の概要】
 本研究では、わが国におけるXIAP欠損症患者の移植成績、移植前後でのIBDの病勢変化、および腸内細菌叢の組成と多様性を解析しました。
 2020年3月末までにXIAP欠損症26症例でHCTが行われ、生存率は84%と諸外国からの報告に比べて非常に優れた成績でした。解析の結果、HLA※5ミスマッチの移植である場合と、移植時に活動性HLHを合併する場合で、移植後の生存率が有意に低下することが明らかになりました。
 本研究では、わが国でXIAP欠損症に対して行われたHCTの情報を全国から集積し、移植前後で腸管内視鏡所見、病理所見が大幅に改善していることをほぼすべての症例で確認することができました。また、小児の炎症性腸疾患の病勢を評価する小児潰瘍性大腸炎活動指数(PUCAI score, Pediatric Ulcerative Colitis Activity Index score)は移植後で著明に改善していることを明らかにしました。
 さらに研究グループは、XIAP欠損症に合併したIBDがHCT後に改善した理由を探るために、前後で腸内細菌叢の変化を調べました。HCT前の患者群では、Ruminococcus属とLachnospiraceae属が減少し、HCT後には健康な家族と同じレベルまで増加することがわかりました。これらの細菌属は、腸管上皮細胞の炭素源となる短鎖脂肪酸を産生し、腸管の恒常性維持に貢献していると考えられています。またLachnospiraceae属は、クローン病における抗TNF-α治療の抵抗性に関係していることが近年明らかになっています。本研究では、この属が減少することと、XIAP欠損症に合併したIBDが抗TNF-α治療を行っても難治性で薬剤耐性を示すこととの関連性が示唆されました。HCT前の患者群では、同居している健常家族群と比較して腸管細菌叢の主成分分析が大きく離れていましたが、HCT後には健常家族群に大幅に近づいている、すなわち正常化していることが分かりました。

【研究成果の意義】
 XIAP欠損症に対するHCTは、国際的な研究では望ましい成績が得られていませんでした。しかし本研究により、わが国におけるXIAP欠損症に対するHCTの成績が優れていることを明らかになりました。
 また、本研究ではXIAP欠損症に合併したIBDがHCTにより完治することを多数の症例で初めて示しました。さらにXIAP欠損症関連IBDでは、腸内細菌叢の異常が発症や治療抵抗性に関与している可能性を示し、この異常がIBDで改善することを明らかにしました。
 本研究により、XIAP欠損症のみならず先天性免疫異常症に合併したIBDの病態解明や新規治療方法の開発に大きく貢献することが期待されます。

【用語解説】
※1 XIAP欠損症
XIAP遺伝子の異常によっておこる稀な先天性免疫異常症である。X連鎖劣性であり、基本的には男児にのみ発症する。

※2 血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis: HLH)
T細胞やマクロファージの異常により高熱、肝脾腫、血球減少、凝固異常などの症状を呈し、時に致死的となる疾患である。

※3 炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)
Crohn病や潰瘍性大腸炎など、免疫の異常により、自身の免疫細胞が腸の細胞を攻撃してしまうことで腸に炎症を起こす病気で、慢性的な下痢や血便、腹痛などの症状を呈する。

※4 造血細胞移植(hematopoietic cell transplantation: HCT)
血液をつくる元になる造血幹細胞を含む造血細胞を患者(レシピエント)に移植することである。ドナーソースによって骨髄移植、臍帯血移植、末梢血幹細胞移植に分けられ、移植後は長期間にわたり免疫抑制剤の投与を必要とする。

※5 HLA(ヒト白血球型抗原、human leukocyte antigen)
ヒトの主要組織適合遺伝子複合体のことであり、白血球の血液型ともいえる。造血細胞移植の際にはHLAが合致あるいは近いドナーからの移植でないと、拒絶反応が強くでる。
 


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