News Release

植物感染性線虫の誘引物質の同定に成功

亜麻種子から抽出した多糖成分が線虫を惹きつける

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Nematode behavior in response to flaxseed attractant

image: A;亜麻種子に誘引される小さな多量の線虫 BC;(上段)種子の浸出液(0時間と16時間)を用いた線虫誘引試験 16時間浸出したときのみ線虫誘引活性(白いコロニー)が見られる。 (下段)種子の細胞壁成分の染色試験 16時間浸出したときのみ、多量の細胞壁成分が放出されている。 view more 

Credit: Fig. 1 from (Tsai, A., et. al., Science Advances, 2021) under CC BY-NC 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/legalcode) / Edited: These images are parts of the original image selected for this press release.

熊本大学の研究者グループは、共同研究により、農作物に被害を与えるサツマイモネコブセンチュウの誘引物質の精製・単離・同定に世界で初めて成功しました。亜麻種子中の細胞壁成分「ラムノガラクツロナン-I (RG-I)」に線虫誘因活性があることを突きとめ、この成分に含まれる「ラムノース」と「L型ガラクトース」の2糖が特に重要な線虫誘引物質であることが判明しました。

農業被害の原因の一つとして、土壌中に生息する植物感染性線虫による被害が知られています。線虫類は植物の根に寄生し、自身が増殖するためのコブを形成します。コブが多数形成された植物体は、根から十分な水分や無機塩類を吸収することができないため、生育不良や枯死などの農業被害をもたらすことが知られています。線虫類による農業被害は世界的にも大きな問題となっており、その被害額は世界で年間数十兆円とも試算されています。

既存の農薬や土壌燻蒸による殺虫方法は、土壌中の線虫を直接殺すため被害の軽減に大きな効果がありますが、強い農薬は土壌中の全ての微生物を殺してしまうため、使用が規制されつつあります。また、使用者の健康被害・環境被害も大きいことに加え、農薬や土壌燻蒸にかかるコストも農業従事者にとっては大きな負担になっています。そのため、新たな線虫駆除の手法の開発が期待されていますが、今のところ効率的な環境保全型の線虫対策は全くありません。

これまで、多くの研究者が植物が放出する線虫誘引物質の同定を試みてきましたが成功していませんでした。根端部から浸出する根の誘引物質を大量に集めることができず、精製にまでいたらなかったのが原因のひとつだと考えられます。また、線虫誘引活性を検出するには大量の線虫が必要で、その培養法がなかったのも、研究が進まなかった原因だと考えられます。

そのような状況の中、本研究グループは、線虫被害を軽減する線虫トラップ剤の開発を念頭におき、線虫誘引物質の同定に取り組んできました。本研究グループは、これまでに線虫の大量培養法を開発しています。今回、本研究グループは、サツマイモネコブセンチュウと亜麻種子を用いた実験により、亜麻種子にも線虫誘引活性があることを見いだしました。亜麻種子は、簡単かつ大量に手に入る材料であり、誘引物質の精製には最適でした。亜麻種子の浸出液に含まれる細胞壁成分を利用し、線虫誘引活性を指標に様々な精製段階を経て、線虫誘引物質を単離することに成功しました。

次に、その精製物質を調べたところ、誘引物質は、多糖であることがわかりました。また、その構造は、ラムノースとガラクツロン酸が主鎖であり、側鎖として、L型ガラクトースとフコースが単糖として負荷されているポリマー状のRG-I多糖であることがわかりました。

また、RG-Iをさらに詳しく調べたところ、ラムノースとL型ガラクトースの2糖が、線虫が認識する最小の構造であることがわかりました。興味深いことに、D型は植物の細胞壁によく含まれていますが、L型は比較的少なく、亜麻の種子には例外的に多く含まれています。線虫がL-ガラクトースを特異的に好むのは、誘引分子のわずかな分子の違いを識別できる高度な認識メカニズムを持っているためで、このため標的の植物を土の中でも効率的に見つけることができると考えられます。さらに、この2糖を人工合成した合成糖にも線虫誘引活性があることを確認しました。なお、この糖類は、線虫の栄養源になるわけではなく、誘引物質としてのシグナルとして機能していると考えられます。

本研究を主導した澤進一郎教授は、次のようにコメントしています。

「今回発見した線虫誘引物質を用いることで線虫トラップ剤の開発が期待できます。この亜麻種子由来の線虫誘引物質は、植物に含まれる天然の成分であり、農薬としての登録は必要ありません。また、本研究により開発される線虫トラップ剤は、農業従事者の健康被害や環境被害もないと考えられ、持続可能な環境保全型の農業に貢献できると考えます。本研究は、農業分野に大きなイノベーションをもたらすことが期待されます。」

 

本研究成果は、科学誌「Science Advances」に令和3年7月2日に掲載されました。


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