News Release

NFkBデコイ核酸医薬※1による幼若永久歯の再植後の治癒の促進

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Excessive inflammation after tooth replantation induces several omplications including root resorption, termination of root formation and pulp necrosis, caused by excessive inflammation. NF-kB decoy ODN-loaded PLGA nanosphere inhibits post-operative inflammation, thus enhances periodontal regeneration, including reduction of root resorption, and continuation of root formation. view more 

Credit: Department of Orthodontic Science, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野の小野卓史教授と石田雄之助教およびLi Kai大学院生らの研究グループは、アンジェス株式会社、ホソカワミクロン株式会社との共同研究で、歯根が未完成の幼若永久歯を用いた再植治療に伴う歯根形成能の停止、歯槽骨との癒着、歯髄壊死等のリスクを防ぎ歯周組織の創傷治癒を促進するために、再植後の初期炎症のコントロールが重要であることに着目し、炎症を抑え歯周組織の創傷治癒促進に作用するPLGAナノ粒子に封入したNFκBデコイを再植歯根表面に塗布することで、効果的に初期炎症を抑え、周囲歯槽骨の吸収および歯髄の石灰化を抑制し、歯周組織の治癒を促進することを明らかにしました。この研究は文部科学省科学研究費補助金ならびにアンジェス株式会社、ホソカワミクロン株式会社、株式会社野村事務所の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Journal of Periodontologyに、2021年7月28日にオンライン版で発表されました。


【研究の背景】
 学童期において、歯の外傷およびそれに伴う脱落は最も多発する歯の喪失原因であり、その一般的な治療法として、脱落歯を洗浄し元の場所に戻し、固定する再植治療※2が最もよく行われております。しかし、その際に歯と骨が病的に癒着するアンキローシスや炎症性歯根吸収が少なからず起こることが報告されており、学童期の顎骨成長や審美面に重大な影響を及ぼします。これまでの先行研究より、様々な炎症を抑える薬剤の使用により、再植歯および周囲組織の治癒を促進させることが試みられてきておりますが、未だそれらの副作用を防ぐ有効な治療法は確立しておりません。
 今回研究グループが着目したNF-κB経路は、炎症の発生および調節における重要な経路あり、本研究ではNF-κB経路を安全かつ効率的にブロックすることができるNF-κBデコイ核酸ならびに核酸医薬の導入効率、生体吸収性に優れたPLGAナノ粒子を使用して、歯の再植時に生じる歯周組織と歯根での炎症反応の制御および治癒機序、歯根形成能にどのような影響を及ぼすか動物実験モデルを使用して検討しました。


【研究成果の概要】
 研究グループは、前歯が萌出し続けるラットの前歯を用いて、歯根形成能を持つ幼若永久歯の再植モデルを作製し、再植前の歯根膜に薬剤を適応し再植後の治癒過程を解析したところ、NF-κBデコイ核酸含有PLGAナノ粒子適応(PNd)群において、その他の群と比較し、再植歯の歯根の厚みが有意に大きく、歯根膜スペースが小さく、歯根の体積が大きくなることを明らかにしました。

 さらに、研究グループは、歯周組織を対象に免疫化学染色解析を行い、その結果、無処置群と比較して、すべての再植群でIL-6、IL−1βの炎症性サイトカインの増加が、また再生に関与するTGF-β1とFGF−2が有意に減少したことが認められましたが、PLGAナノ粒子適応(PNd)群は他の3つの実験群と比較して、有意にIL-6、IL−1βの減少、TGF-β1、FGF−2の増加することが明らかとなりました。
 以上のことから、PLGAナノ粒子はNF-κBデコイ核酸医薬を導入するためのキャリアとして有用であること、 NF-κBデコイ核酸含有PLGAナノ粒子は歯の再植後の初期の過剰な炎症のコントロールと歯周組織の再生を促進することが示唆されました。
 

【研究成果の意義】
 歯の外傷罹患率は、学童期では約25%と非常に高く、特に上顎中切歯に関しては86%と報告されています。外傷により脱落した歯を再植し、その予後を良好なものとするためには、その歯根膜の活性維持が重要な要因の一つであると考えられており、再植後の炎症のコントロールが重要ではないかと仮説を立て、本研究ではNF-κBデコイ核酸およびPLGAナノ粒子を用いて炎症のコントロールを試み、初期炎症の抑制、歯根吸収の抑制、歯根形成能の維持に寄与することが明らかとなりました。
 本研究で得られた成果は、再植治療における歯根膜治癒促進および歯根吸収抑制のための分子標的としてNF-κBが重要である可能性を示唆するとともに、学童期の外傷に伴う未完成歯の脱臼に対する再植治療において、アンキローシスや歯根吸収を予防し、歯根形成能を維持するための新たな治療法の開発のきっかけとなることが期待されます。


【用語解説】
※1核酸医薬・・・・・・・・遺伝情報をつかさどるDNAやRNAを構成するヌクレオチドを利用した医薬品のこと。直接mRNAなどに作用させることができるため、高い特異性と、従来の医薬品では狙いづらかった細胞内の標的分子をターゲットとすることができる。
※2再植治療・・・・・・・・外傷などで脱臼してしまった歯を元の位置に戻して固定し、歯と周りの組織の治癒を促す保存的治療法のこと。成長期の前歯脱臼は見た目だけでなく顎骨の成長や歯並びに影響を及ぼすので、とりわけ重要だと考えられている。
 


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