News Release

海綿にみられる細胞の多様性から神経系の進化が明らかに

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

ヒトにとって進化上最も遠い動物である海綿動物の消化腔内に存在する特異的な細胞は、神経系の進化における出発点である可能性が、新たな研究により示されている。「我々の研究は…神経系の進化を解明する上で海綿動物を中心に据えるものである」と、著者らは記している。著者らの研究結果は、栄養摂取の調節と海綿の体内微生物環境に関与する細胞を、動物におけるより進化した細胞間コミュニケーションの先駆的存在と見なすものである。複雑かつ特化した後生動物門において、細胞相互で直接的コミュニケーションができる細胞種の進化起源については、まだ不明である。海綿動物門(Porifera)、いわゆる海綿は多細胞生物であるが、真に組織および器官と言えるものはなく、神経・消化・循環系システムを有していない。その代わり、海綿動物は多孔性の体内を流れる水によって、食物・酸素を摂取し、老廃物を排泄している。しかし、身体構造は単純であるが、海綿動物には、通常はより複雑な動物の神経細胞や筋肉で発現されている遺伝子や、ヒトの脳においてシナプス結合を構築するために利用される遺伝子が認められる。さらに、海綿は全身を収縮させることで、体内の不要物を洗い流す。これらの神経系を持たない生物の体内において、こうした協調的なコミュニケーションのできる細胞は、これまで同定されていない。その理由の一部として、こうした海綿細胞における遺伝子の役割を研究するには技術的な障害があったことが挙げられる。全身のシングルセルRNAシークエンシングを用いて、Jacob Musserらは淡水海綿であるSpongilla lacustrisの細胞種について包括的な研究を行った。Musserらは18種類の細胞種を同定したが、これにはこれまで知られなかったもの、認識されていなかったもの、そしてあまり理解されていなかったものが複数含まれていた。著者らの報告によれば、収縮能を有する扁平細胞、アメーバ様の貪食細胞、ならびにシナプス伝達にとって重要な遺伝子を発現する消化作用に関わる襟細胞と密接に関連する分泌性の神経様細胞が、いずれも海綿の消化腔の周囲に存在していた。神経様細胞を対象にX線と電子顕微鏡を相関させた画像研究から、細胞間コミュニケーションを支え、栄養摂取の調節に用いられている特異的な細胞が、消化腔の周囲にあることが示された。Musserらは、これら一連の細胞が保存されて、より進化した動物のシナプス前部および後部の構成要素となった可能性があると論じている。


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