新しい研究で、メキシコ・アリゾナ間のアメリカ南部国境に広がる砂漠を横断する不法移民の死亡は、脱水が起り得るといった生理的ストレスが最も大きい地域に偏って集中していることが報告された。一つには人間以外の動物のストレス研究にこれまで使用されていたモデルに基づいて、この分析は、人体の仕組みへの生物物理学的モデリングの新たな適用であるとともに、人間の生理、ストレス、進化に対する過去、現在、未来の気候の影響を知るのにも役立つと著者らは述べている。彼らのモデリングは、不法移民がアメリカ南部を横断する旅が気候変動につれて今後数十年でもっと危険なものになることを示唆している。アメリカ南西部の国境を越えようとする不法移民が検挙を逃れるには、多くの場合、使える水がほとんどない状態で起伏が激しく気温の高い砂漠を横断するという非常に危険な旅をしなければならない。こういった地形を横断する旅についての移民ら個々の話によると、彼らは最も犠牲の少ない経路を見定める知識を持っていないことが多い。そういった旅で実際にどれだけの人命が犠牲になっているかを今は知ることはできないが、報告によればこの地域での不法移民の死亡は年間約350人となっている。生き残った移民から直接入手した話によると、彼らは極度の熱ストレスと脱水を経験したという。しかし、こういった危険および危険と移民の死亡率との関係についての実証的証拠はない。Shane Campbell-Statonらは、人間以外の動物に対して環境が引き起こす生理的ストレスの動態を解明する際に通常使用される手法を用いて、一般的な経路でソノラ砂漠を横断する移動に関係する生理的ストレスをモデル化した。彼らは、移民の死亡が記録されている場所は予測される生理的ストレス ―― 特に蒸発による水分の損失量 ―― が最も大きい地域に集中していることが多いことを発見した。Campbell-Statonらによると、これら地域の最小の推定水分損失量でも人間は重度の脱水症を起こして死亡し、このことは不法移民の死亡率に見られるパターンの根本的原因を示しているという。
Journal
Science
Article Title
Physiological stressors endured during undocumented migration across the southern United States border
Article Publication Date
17-Dec-2021