News Release

脂質異常症および関連疾患に有効なワクチン治療薬を開発

Scientists develop a new candidate vaccine that improves obesity-related disorders and may be economical

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: The new peptide vaccine from researchers at Kumamoto University targets ANGPTL3 and improves dyslipidemia, fatty liver, and atherosclerosis in mice. view more 

Credit: Kumamoto University

【概要説明】

 脂質異常症は、生命予後や健康長寿を脅かす動脈硬化性疾患の発症・進展の主要な要因です。脂質異常症の治療の原則として、動脈硬化症の発症や再発予防の観点から、血中LDLコレステロール注5)値をできる限り低下させることの重要性が多くの臨床研究により示されています。そのためにスタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が一般的に広く使用され、その有効性も確立しています。重篤な症例では、血中LDLコレステロール値をできる限り低下させるために、スタチン系薬剤の増量や他の薬剤の追加投与による治療(多剤併用療法)が行われています。しかし、これらの治療では、有害な症状、徴候、ならびに検査値異常により、治療継続困難となる患者さんがいるため、さらに新たな治療薬の開発が期待されています。また近年、高中性脂肪血症も動脈硬化発症を促進することが示されており、ポリファーマシー注6)への対応の観点から、血中LDLコレステロール値と中性脂肪値をともに強力に低下できる薬剤の開発が期待されています。
 このような中、これまでの研究から、「ANGPTL3」の機能欠失型の遺伝子変異をもつヒトが、変異をもたないヒトに比べ、血中LDLコレステロール値及び中性脂肪値がともに低下しており、心血管疾患の発症リスクが有意に低いことが見出されました。このため、脂質異常症を増悪させるタンパク質としてANGPTL3が認識され、その機能や産生を抑える脂質異常症治療薬の開発が進んでいます。既にANGPTL3を標的とした抗体医薬、核酸医薬等のバイオ医薬品注7)が開発され、臨床治験において遺伝性疾患であり重篤な脂質異常症を発症する家族性高コレステロール血症に対しても有効性を示しており、実臨床の現場での早期の実用化が期待されています。しかし、一般的にバイオ医薬品は薬価が高いため、より安価な治療法の開発が求められています。

 熊本大学大学院生命科学研究部の尾池雄一教授らの研究グループは、ANGPTLファミリーの同定から、それらの機能や病態における意義の解明に関する研究を行ってきました。そして、本研究では、ANGPTL3に対するペプチドワクチン治療法の開発に成功しました。マウスモデルを用いた実験により、(1)過食や肥満に伴う脂質異常症および脂肪肝の改善効果、(2)家族性高コレステロール血症の脂質異常症および動脈硬化の改善効果を確認しました。

 ペプチドワクチンは、バイオ医薬等と比較して一般的に安価に製造されるため、医療経済の面で優れており、今後、脂質異常症および動脈硬化症や脂肪肝などの脂質異常症関連疾患に対する新規治療オプションの一つとして期待されます。

 本研究成果は、大阪大学大学院医学系研究科の森下竜一寄附講座教授、中神啓徳寄附講座教授との共同研究で行われました。また、熊本大学健康長寿代謝制御センター研究助成、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けたもので、米国東部時間2021年11月16日午前11時(日本時間令和3年11月17日午前1時)に、Cell Reports Medicineオンライン版に掲載されました。

【用語解説】

注1)脂質異常症
脂質異常症は、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態であり、一般的に過食や運動不足などの生活習慣の変容によって生じることが多いです。その他、特定の遺伝子変異が原因で遺伝的に脂質異常症を有する場合も見られます。

注2)ANGPTL3(アンジオポエチン様因子3 )
アンジオポエチン様因子とは、TIE2受容体のリガンドであるアンジオポエチンに構造上類似するもののTIE2受容体に結合できない分泌型タンパク質として同定され、現在8種類存在します。ANGPTL3はその1つです。様々な研究からANGPTL3の産生や機能を抑えることで、脂質異常症が改善することが報告されており、ANGPTL3を標的とした脂質異常症治療薬の開発が世界的に行われています。

注3) ペプチドワクチン
ワクチンとは、主に病原体など病気の原因に拮抗する免疫を誘導するための医薬品です。ペプチドワクチンは、病原性を示すタンパク質を構成するアミノ酸の一部(ペプチド)とキャリアタンパク質を結合させたものから構成されます。本研究で開発したANGPTL3ペプチドワクチンでは、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)というキャリアタンパク質と脂質異常症の治療標的となるANGPTL3のペプチドから構成され、液性免疫を誘導しANGPTL3機能を阻害する中和抗体の産生を誘導します(図6)。

注4)家族性高コレステロール血症
脂質代謝に関連する遺伝子の変異によって生じる遺伝子疾患であり、生後早い時期から血液中のコレステロール高値を呈します。そのため、早期から積極的に有効な治療をしなければ、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの病気を引き起こします。既存の治療薬を組み合わせても十分な治療効果が得られない方や、既存の治療薬に不耐性の方も存在し、新規治療薬の開発が望まれています。

注5)LDLコレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)
コレステロールは、細胞の膜や、体の機能を調整する重要なタンパク質です。LDL-Cは肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ役割を担っていますが、増えすぎると動脈硬化を生じ心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを高めることから悪玉コレステロールともいわれています。

注6)ポリファーマシー
ポリファーマシーとは、必要以上に多くの薬が処方された状態をいいます。高齢になるほど罹患する病気が増えて、薬の数が多くなる傾向にありますが、多くの薬を内服することにより有害な副作用を来しやすくなります。また、医療経済の負担増加にもつながるため、ポリファーマシーの解消が求められています。

注7)バイオ医薬品
バイオ医薬品とは、生物や生物のもつ機能をもとにした技術(バイオテクノロジー)によって作られた医薬品の総称です。代表例としては、「抗体医薬」、「核酸医薬」があります。人工的に作り出した抗体を薬にしたものを「抗体医薬」、病気の原因となるタンパク質の元となるRNAやDNAの働きを抑制する物質を用いたものを「核酸医薬」といいます。


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