News Release

スピン波を広帯域化および高強度化する素子構造を確立

半導体と磁性体を融合した超低消費電力なスピン波回路実現に貢献

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

提案したスピン波励起・検出構造の概略図

image: 上部の電極と金属層の間に磁性絶縁体があり、全体がシリコン基板上にある view more 

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<概要>

 豊橋技術科学大学の後藤太一助教らの研究チームは、半導体であるシリコン(Si)と磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)を組み合わせた基板を用いると、チップのように小型化しても、スピン波を広帯域かつ高強度で励起および検出が可能な素子が実現できることをシミュレーションで示しました。スピン波は、電流を流さない磁性絶縁体中を伝わることから、次世代超低消費電力デバイスへの応用が期待されています。同時に、一般に広く使用されている半導体デバイスとの融合が検討されており、本研究はこれに向けた基盤技術および材料開発の指針になると考えられます。

本研究は,豊橋技術科学大学の森冠太 博士前期課程生、高口拓己 博士後期課程生、後藤太一 助教、中村雄一 准教授、リム・パンボイ 教授、井上光輝 教授、信越化学工業株式会社の渡邊聡明主席研究員、サンクトペテルブルグ電気工科大学のウスティノフ・アレクセイ教授が共同で行ったものです。

<詳細>

 スピン波は、電気を流さない磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)の中を流れることから、次世代の超低消費電力デバイスへの応用が期待されています。スピン波を使った論理演算素子などの実証が、ロシア、ドイツ、アメリカ、および日本といった世界各国で進められています。豊橋技術科学大学では、このスピン波デバイスをより小さくし、チップサイズに小型化する研究を進めています。スピン波デバイスを小型化する際には、スピン波を励起する素子構造を小さくする必要があります。

しかし、研究を進めていく中で、単純にこれまでの構造を小さくするだけでは、励起できるスピン波の周波数帯域が狭く、かつ、強度が小さくなることが分かってきました。これには、スピン波の励起素子の電極構造が関係しています。スピン波の励起素子は、2つの電極とYIGによって構成されています。広い周波数帯域、かつ、高強度なスピン波を励起するには、この2つの電極を、YIG膜の表面と裏面に形成する必要があることが分かりました。

しかし、最近のスピン波デバイス研究におけるYIG膜の厚さは数マイクロメートルからナノメートル台であり、割れてしまうなどの理由から、単純に膜の両端面に電極を作れないほど薄くなっています。

そこで、本論文では、厚さ1マイクロメートルのYIG膜を半導体であるシリコン(Si)上に、金属層(Metal)を介して、接着した、YIG-On-Metal(YOM)構造を提案しました。YOM基板を使うと、YIGのウラ面には電極がすでに形成されているため、オモテ面に、もう片方の電極を作るだけで、スピン波励起素子を作ることができます。この構造をシミュレーションすると、従来の電極構造に比べて、周波数帯域が広く、かつ、強度が大きく、性能指数が2倍以上大きなスピン波励起素子が実現できると分かりました。

<今後の展望>

 提案したYOM構造は、Si基板上に形成されることから、磁性体を用いたスピン波デバイスと半導体を用いた電子デバイスとの融合研究を加速すると考えています。今回のシミュレーション結果をもとに、実際のYOM基板およびスピン波素子を、SiとYIGの両方の材料開発を得意とする信越化学工業株式会社、スピン波素子開発を得意とするサンクトペテルブルグ電気工科大学、および豊橋技術科学大学の共同で開発を行う予定です。最終的には、スピン波素子の得意とする機能により、半導体を用いた電子回路の苦手とする機能を補い、総合的に優秀なデバイス・システム開発を目指しています。

<論文情報>

本研究は、次の論文で報告されました。無料ダウンロードが可能になっています。

・Kanta Mori, Taichi Goto, Toshiaki Watanabe, Takumi Koguchi, Yuichi Nakamura, Pang Boey Lim, Alexey B. Ustinov, Mitsuteru Inoue, “Broadband excitation of spin wave using microstrip line antennas for integrated magnonic devices”, Journal of Physics D: Applied Physics, https://doi.org/10.1088/1361-6463/ac3f10

 

本研究は、次の支援を受けて実施されました。

・日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(B)No.20H02593、基盤研究(A)No.19H00765、挑戦的研究(開拓)No.20K20535

・日本学術振興会二国間交流事業 No.JPJSBP120214807

・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)No.20002157-0

・電子回路基板技術振興財団

・中部電気利用基礎研究振興財団


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