News Release

混合するだけでタンパク質性 医薬品の安定性と 持続性を高める超分子素材を開発

Researchers develop a novel “supermolecular” material that improves the stability and efficacy of protein drugs

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: Researchers at the Kumamoto University develop a new supramolecular material that can be a promising PEGylating agent for protein drugs. view more 

Credit: Kumamoto University

(概要説明)
 熊本大学大学院先導機構の東 大志准教授、同大学大学院薬学教育部博士前期課程1年の歌津康生大学院生、同課程卒業生の古後徹也さんらのグループは、混合するだけでインスリンや抗体などのタンパク質性医薬品の欠点を一挙に改善する超分子素材を開発しました。本超分子素材と抗体を混合すると、抗体の作用を低下させる凝集体形成を顕著に抑制し、安定性を改善しました。また、インスリンと混合すると、インスリンの血糖降下作用を全く減弱させることなく効果を有意に持続させました。本超分子素材は、混合するだけで様々なタンパク質性医薬品の欠点を改善できることから、機能性と汎用性を兼ね揃えた製剤素材として応用が期待されます。
 本研究成果は、国際科学雑誌「Materials Today Bio」において、令和 3 年 11 月 16 日に公開されました。本研究は、内藤記念科学振興財団、文部科学省卓越研究事業などの支援を受けて実施したものです。


(説明)
 近年、医薬品が従来の低分子医薬品からタンパク質などを用いた高分子医薬品にシフトしています。しかしタンパク質性医薬品は安定性が低く、熱や振とうなどのストレスによって容易に凝集体を形成し、医薬品の効果を低下させるため、輸送時や保存時に注意が必要です。また、タンパク質性医薬品は、注射後、速やかに体外に排泄されてしまうため、効果が充分に持続しないものがあります。

 そのような欠点を改善するため、タンパク質にポリエチレングリコール (PEG) を結合させた PEG 化タンパク質性医薬品が開発され、すでに臨床使用されています。PEG 化することで凝集化しにくくなり、効果の持続性が高くなります。しかし、タンパク質を PEG 化すると、タンパク質が標的分子に作用する際に PEG 鎖が邪魔になり、活性 (薬効) が著しく低下してしまいます。

 このような問題を克服するため、最近では、PEG を取り外し可能な形で可逆的に結合させる方法が研究されています。可逆的な PEG 化により、最終的には PEG 鎖がタンパク質から離れ、標的分子に作用しやすくなる結果、活性を保持することができます。しかし、可逆的 PEG 化技術の多くは、タンパク質との相互作用が弱いため、タンパク質の欠点を改善する効果も弱いことが知られています。

 東准教授らは、可逆的 PEG 化剤とタンパク質の相互作用が弱い原因として、これらのかたちや電荷分布がマッチしていないことが原因であると考えました。そこで、タンパク質のかたちや電荷分布に合わせて変形し、タンパク質と強く相互作用する可逆的 PEG 化剤を開発しました。

 まず、変形する素材を構築するため、ポリロタキサンと呼ばれる超分子を用いました。ポリロタキサンとは、細長いひも状分子 (PEG) を複数のビーズ状分子 (-シクロデキストリン) の穴にとおし、ひも状分子の両端を嵩高い分子で塞いだ化合物のことをいいます。ポリロタキサン中のビーズ分子は、ひも状分子鎖に沿って動くことができるため、ポリロタキサン中のビーズ分子に、タンパク質と相互作用可能な官能基を導入すると、タンパク質のかたちや電荷分布に合わせてオンデマンドに官能基をタンパク質に提示可能であると考えられました。アミノ基 (正電荷) を有するポリロタキサンを構築し、インスリンなどの酸性タンパク質 (負電荷を有する) と混合すると、期待通り、インスリンのかたちや電荷分布に合わせてアミノ基が動き、高効率に複合体を形成することが示唆されました。

 また、デキストランと呼ばれる高分子にアミノ基を修飾したアミノ化デキストランを調製し、アミノ基が動かない対照物質としてアミノ化ポリロタキサンと比較した結果、アミノ化ポリロタキサンはアミノ化デキストランよりも非常に効率よく複合体を形成しました。すなわち、複合体の効率的な形成のために、アミノ基が動くことの重要性が示唆されました。

 そこで次に、アミノ化ポリロタキサンに PEG を結合させ、可逆的超分子 PEG 化剤を構築しました。本 PEG 化剤をインスリンに混合すると、効率よく複合体を形成し、間接的に PEG 鎖をインスリンに結合させることができました。また、重要なことに、本 PEG 化剤とインスリンを混合し、ラットに皮下投与すると、インスリン本来の活性を全く低下させることなく、インスリン単独よりも有意に血糖降下作用 (インスリンの薬効) を持続させました。このとき、可逆的超分子 PEG 化剤は、身体の中にある別の酸性タンパク質 (アルブミン) と競合的に結合することでインスリンを放出し、活性を示す可能性が示唆されました。

 最近、抗体医薬品の開発が活発になっていますが、抗体は輸送時や保存時に容易に凝集体を形成します。抗体が凝集体を形成すると、抗体の活性が無くなってしまうだけでなく、投与後、異物として認識され、アナフィラキシーなどの副反応を引き起こす恐れもあります。そこで次に、可逆的超分子 PEG 化剤が、抗体の凝集体形成を抑制可能か評価しました。抗体単独を激しく攪拌すると、1 日後には 90% 以上の抗体が不溶性の沈殿 (凝集体) を形成しました。一方、可逆的超分子 PEG 化剤を添加すると、7 日後もほとんど凝集体を形成せず、抗体の安定性が劇的に改善されました。

 このように、本研究で開発した可逆的超分子 PEG 化剤は、混合するだけで活性を損なうことなくタンパク質性医薬品の欠点 (凝集化しやすいことによる効果低下、効果の持続性の低さ) を一挙に改善する超分子素材として有用であると考えられます。現在、タンパク質性医薬品の開発が激化していますが、本素材はタンパク質性医薬品の製剤特性を簡便に改善する優れた添加剤として期待されます。

 

(論文情報)
論文名:Supramolecular polymer-based transformable material for reversible PEGylation of protein drugs
著者 :Kosei Utatsu, Tetsuya Kogo, Toru Taharabaru, Risako Onodera, Keiichi Motoyama, Taishi Higashi
掲載誌:Materials Today Bio
doi :doi.org/10.1016/j.mtbio.2021.100160
URL :https://doi.org/10.1016/j.mtbio.2021.100160


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.