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DNAに秘められた太古の物語を読みほどく

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

  • 本研究では、海洋無脊椎動物のゲノムが、はるか長い年月にわたって安定性を維持してきたことを明らかにした。
  • 染色体は、数百万年の間に起こるランダムな突然変異により一部が再編成され、時には融合したり混ざり合ったりすることで、種によって異なるゲノムを持つようになる。
  • 本研究では、海綿動物、刺胞動物、左右相称動物という3つの主要な動物群に属する生物種のゲノムを比較し、それらが驚くほど似ていることを明らかにした。
  • 本研究において、さまざまな軟体動物で4種類の遺伝子が混ざり合っていることを発見したが、それが太古のものであることから、すべての軟体動物や近縁種に共通してみられるものと考えられる。
  • 本研究で、祖先からの染色体セグメントを合計で29ヵ所特定した。そのいくつかは、動物が出現する約8〜9億年前、すべての生命が単細胞または非常に単純な多細胞生物であった頃から存在していたことを明らかにした。

この度、Science Advances誌に掲載された論文において、海綿動物、クラゲ、ホタテガイ、そして人間に最も近縁である無脊椎動物などの互いに遠縁の動物群を包括的に分析し、それぞれの染色体が驚くほど類似していることを発見しました。このことから、海洋無脊椎動物のゲノムがはるか長い年月にわたって、驚くほどに安定性を維持してきたことが明らかになりました。本研究では、

ゲノムとは、細胞の中に存在する取扱説明書のことで、DNAのコードで書き込まれています。生物が機能するために必要な情報がすべてそこに含まれているこの取扱説明書は、染色体という章に分かれており、それがさらに遺伝子という各ページに分かれています。

本論文の責任著者で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)分子遺伝学ユニットを率いるダニエル・ロクサー教授は、次のように説明しています。「染色体の中の遺伝子は、5億5千万年以上の長い年月の間にランダムに突然変異が起こり、順番に乱れが生じました。これは、本の中の章のページの順番が入れ替わるようなものです。そしてさらに驚くべきことに、異なる章が合わさって順番が入り乱れるように、2つの染色体が融合して混ざり合っているものもあります。しかし、全体的に見ると、著しい安定性があることがわかりました。これら3つの動物群の最後の共通祖先が生存していたのは5億年以上前ですが、それらの染色体の多くは同じ遺伝子群を持ち、非常に類似していることが分かりました。」

本研究では、筋肉や神経を持たない非常に単純な動物である海綿動物や、刺胞動物であるクラゲやヒドラ、そして左右相称動物であるホタテ貝やナメクジウオという3つの広範な動物群に属する種のゲノムを比較しました。これらのゲノムには、すでに解読されていたものも、この度の研究で初めて解読が行われたものもありました。これらの生物の多くは、既にゲノム配列の「下書き」を解読した初期研究がありましたが、染色体の全体的な構成は調べられていませんでした。しかし、遺伝子技術が進歩した今、研究者たちは遺伝子のパズルを組み立て、長い糸の中でどのように構成されているかを比較することができます。本研究では、ヒドラの染色体を初めて再構築したり、ナメクジウオの染色体の解読を大幅に改良したりして、広範囲にわたる比較分析が完了しました。

OIST、ウィーン大学、カリフォルニア大学バークレー校・アーバイン校・サンタクルーズ校、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンなどの研究者からなる国際研究グループは、5種類の動物の染色体の間に顕著な類似点を発見し、それらの類似点が他のさまざまな動物のゲノムにも存在することを確認しました。また、特定のサブグループに特有の染色体融合パターンも発見しました。例えば、ホタテガイなどのさまざまな軟体動物には太古の融合体が4つ共通して見つかりましたが、これは海洋ワームのゲノムの下書きにみられる融合体とも類似しています。

ロクサー教授は、次のように説明しています。「遺伝子は、異なる種でも同じ染色体上にみられることがありますが、多くの場合、異なる順序になっています。稀に、2本の染色体が融合し、新たに融合した染色体上で遺伝子が入り乱れて混ざり合うと、この融合体は元に戻すことができず、その染色体の進化の歴史を記す永遠のマーカーとなります。それは、2組のトランプを合わせてシャッフルするようなものです。いくらシャッフルし続けても、二度と元の2組に戻ることはありません。」

研究チームは、異なる生物種に同じ融合体が共通してみられるのは、太古の共通祖先において融合が発生したことによると推察しました。本研究では、配列が未決定のゲノムについて、いくつかの検証可能な予測を行いました。例えば、軟体動物とその近縁種である「螺旋動物」のゲノムには、ホタテガイに見られるような特定の融合体がみられるはずであると予測しています。

本研究成果は、興味深い逆説を示しています。ロクサー教授は、そのことについて次のように述べています。「哺乳類が現れたのは、ほんの約1億年前のことです。しかし、2種類の哺乳類、例えばヒトとマウスのゲノムを比較すると、染色体はまるで数百個の切片に分割されて混ぜ合わされたかのようです。私たちが無脊椎動物において発見した染色体規模の保存性という特徴は、哺乳類では全く見られないのです。」

教授は、哺乳類の染色体が異なる進化を遂げたのは、歴史的に見て、哺乳類は海洋無脊椎動物の多くに比べて小規模に細分化された集団で生活してきたためではないかと推測しています。小規模に 細分化された集団ではランダムに起きる突然変異が残りやすいため、哺乳類では染色体の再編成がより広がりやすいと考えられます。

研究チームは、祖先の染色体セグメントを合計で29ヵ所特定しました。さらに、これらのセグメントの中には、動物が出現する前の約8~9億年前、すべての生物が単細胞または非常に単純な多細胞生物であった頃から存在しているものもあることを発見しました。このように、遺伝子の中には約10億年前から同じ組み合わせのまま受け継がれてきたものもありますが、これらの祖先遺伝子のつながりがどのような結果をもたらすのかは謎のままです。


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