News Release

科学者が捉えたモアレ励起子の束の間のダンス

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

励起子形成の描写(イメージ図)

image: 半導体材料に光を照射すると、光の粒子が材料中の電子(図中の青色の粒)と相互作用する。その結果、電子は高いエネルギー準位に励起し、その際にエネルギー準位の低い元の場所に正孔が空く。電子と正孔は逆に帯電しているため、お互いの周りを回転し、一瞬の間、励起子を形成する。 view more 

Credit: OIST

  • 本研究において、非常に効果的かつ正確な手法を用い、「モアレ励起子」と呼ばれる特殊な粒子を可視化に成功した。
  • 励起子の研究は、ハイテクデバイスや量子デバイスに革命をもたらす可能性があると期待されているが、通常は一瞬で消えてしまうため、研究が困難であった。
  • モアレ励起子は、電子エネルギーがモアレ模様を描くように積層された2枚の半導体層の間で形成されるため、より長く存在できる。
  • 今回、世界で初めて励起子の正孔を可視化することに成功し、より高度な研究への道が開かれた。
  • 本研究では、モアレ励起子の電子と正孔の両方の画像から、励起子がモアレ模様のエネルギーが最小の場所で形成し、非常に局在化していることが判明した。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)、SLAC国立加速器研究所(SLAC)スタンフォード大学の研究チームは、「モアレ励起子」と呼ばれる特殊な粒子を形成する2つの要素である電子と正孔を可視化し、測定することに世界で初めて成功し、同論文が、日本時間3月10日午前1時、主要学術誌『Nature』に掲載されます。

励起子の研究は、ハイテクデバイスや量子デバイスに革命をもたらす可能性があると期待されていますが、通常は10億分の数千秒程度という極短い寿命しか励起子がもたないため、研究が非常に困難です。しかし、モアレ励起子はより長く存在できるため、励起子やその応用の可能性を研究する上で魅力的な存在です。しかし、その大きさ、形状、挙動に関する情報は、いまだ明らかになっていません。

励起子は、半導体材料に光を照射することで生じます。光子と呼ばれる光の粒子が材料の電子と相互作用することにより、電子をより高いエネルギー準位に励起させます。その際、エネルギー準位の低い元の場所に正孔ができます。この2つは逆に帯電しているため、互いに引き合って、一瞬の間、励起子を形成します。

本論文の6人の筆頭著者の1人で、OISTのフェムト秒分光法ユニットの博士課程学生であるビベック・パリックさんは、次のように述べています。「私たちはこれまでに、励起子が消滅する前に、その一部である電子を可視化しました。今回の研究では、励起子の電子と正孔の両方を測定しました。電子が抜けた『正孔 』を目撃したのは、今回が初めてです。」

同ユニットのスタッフサイエンティストであり、筆頭著者の一人でもあるマイケル・マン博士は、次のように付け加えています。「これは非常に興味深い研究であり、大きな意味を持つ可能性があります。励起子は、それを含んでいる材料の特性を取り入れます。つまり励起子を含んでいる材料と環境を制御することで、励起子そのものを制御することができるのです。」

以前の研究では、2次元の単層半導体中の励起子を可視化しました。本研究では、2枚の半導体層を重ね合わせました。励起子が形成される際、電子は片方の層からもう片方の層に飛び移ります。これにより、電子と正孔が離れている時間が長くなるため、励起子の寿命が延びるのです。

2層の2次元半導体の材料サンプルは、SLACとスタンフォード大学の最先端の実験施設で作製しました。モアレ模様と呼ばれる模様を作るためには、2枚の層を非常に精密に重ねる必要がありました。

SLACおよびスタンフォード大学のTony Heinz教授が率いる研究グループのポスドク研究員で、筆頭著者でもあるOuri Karni博士は次のように説明しています。「2種類の材料の原子構造が、2枚の網のようなものだと想像してみてください。網を重ねると、2枚の隙間が重なるところと重ならないところが出てきます。これによって、モアレ模様が発生します。ここで言うモアレ模様は、モアレポテンシャルと呼ばれる、材料全体における電子エネルギー準位の周期的な 『模様 』を表しています。」

その後、材料サンプルはOISTに送られ、非常に強力な独自の手法を用いて研究が行われました。材料に極端紫外線領域の光ビームを照射したのです。すると、非常に高い光のエネルギーによって励起子が分解され、電子が材料から飛び出しました。電子が飛び出す際の速さや角度を測定することで、そのデータをさかのぼり、励起子の画像を構築することができました。

本研究において、正孔を確認することができたことは、研究チームにとって、概念としても、そして実験の上でも最も重要かつ感動的なことでした。正孔は、「電子が存在しない状態」であるため、自ら信号を発することはなく、ブラックホールのように、周囲のものの存在によってのみ検出することができます。

スタンフォード大学のFelipe Jornada教授が率いる理論グループの博士課程学生で、筆頭著者の一人であるJonathan Georgarasさんは、次のように述べています。「この非常に強力なツールをもちいることで、電子と正孔が互いにどのくらい離れているかや、材料内でどの程度共に動いているかなど、励起子の全体像を捉えることができました。」

さらに、電子からの信号だけではわからなかった、励起子の数を推定することもできました。

本研究では、モアレポテンシャルによって、エネルギーが最小の場所で励起子が形成され、非常に局在化することが明らかになりました。つまり、直径が約5.2ナノメートルと比較的大きな励起子が、約1.8ナノメートルの小さなポケットにうまく固定されていたということを意味します。

OISTのフェムト秒分光ユニットを率いるケシャヴ・ダニ准教授は、次のように結論付けています。「励起子の存在が知られるようになってから1世紀近くが経過しましたが、今や励起子を覗き込み、その構成粒子の両方を可視化することで、この重要な粒子の大まかな全体像を捉えることができるようになりました。本研究によって、量子技術への応用に向けた励起子のより高度な現象の研究の扉が開かれました。大きなモアレ励起子が非常に小さなポケットに固定されているということを示した今回の研究成果は、ほんの入り口に過ぎません。」


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