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大気不安定な硫化物系固体電解質の新しい力学物性評価法を構築

各構成材料の力学物性値に基づく全固体電池設計へ

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

インデンテーション試験装置と得られるP -h曲線

image: インデンテーション試験装置のイメージ図と装置写真(左)、得られるP-h曲線(右)。Pは荷重、hは圧入深さを表します。赤線は本研究で得られた75Li2S-25P2S5硫化物系固体電解質のP -h曲線を示しています。茶色はLi1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12、緑はLi0.33La0.57TiO3などの酸化物系固体電解質のP -h曲線を示しています。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系の松田 厚範教授らの研究グループは、全固体リチウムイオン二次電池用硫化物系固体電解質の力学物性評価に、インデンテーション試験が有用であることを明らかにしました。硫化物系固体電解質は、大気安定性の問題から不活性雰囲気で扱う必要があるため、力学物性評価の研究は限定的で、経験知に基づいている部分が多くありました。そのような背景の中、グローブバッグでインデンテーション装置を覆いArガスを流入させることで、硫化物系固体電解質の力学物性評価が可能であることを見出しました。本成果により、各構成材料の力学物性値に基づく電池設計への展開が期待されます。

 

<詳細>

 2050年までのカーボンニュートラル(*1)実現目標や、昨今のSDGs(*2)に対する意識の高まりから、自然エネルギーなどの発電技術だけでなく、蓄電デバイスのさらなる高性能化が求められています。蓄電デバイスの第一候補は高電圧かつ高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池であり、スマートフォンや電気自動車用途などで幅広く利用されていますが,更なる高エネルギー密度化,長寿命化,安全性の向上,低コスト化が求められています。次世代蓄電デバイスとして、全固体リチウムイオン二次電池(全固体電池)が注目されています。全固体電池は、リチウムイオン二次電池の有機電解液を無機固体電解質に置き換えた電池で、①優れた安定性・信頼性、②優れた体積・重量エネルギー密度、③優れた出力特性、④広い作動温度などのメリットがあります。

 

 全固体電池は、正極活物質と固体電解質,導電助剤を混合した正極複合体上に、セパレータの役目をする固体電解質、負極複合体を積層させて作製します。全固体電池の主な課題として、電極複合体層での固体電解質と電極活物質の良好な固体/固体界面(固固界面)の構築が挙げられます。充放電反応中に電極活物質が膨張・収縮して体積変化が起こりますが、この体積変化に悪影響を受けることなく、リチウムイオン輸送のために良好な接触状態を維持する必要があります。電極活物質と固体電解質界面の課題を解決するためには、電極活物質と固体電解質のマイヤ硬度(*3)や弾性率(*4)などの力学物性を定量的に理解した上で、材料の組み合わせや複合化割合を決定することが重要です。しかし、代表的な固体電解質である硫化物系固体電解質は大気と容易に反応してしまうため評価が困難です。これまで超音波パルス法(*5)やナノインデンテーション法(*6)での報告がありますが、試験片内の空隙や表面状態に強く依存するなど、正確に力学物性を評価する上での課題があります。

 

そこで本研究では、インデンテーション試験による力学物性評価法(圧子力学試験評価法)に注目しました。この方法では微小な試験片において複雑な加工を必要とせず、圧子の圧入、除荷を行い、理論式に基づいて解析することでマイヤ硬度や弾性率などの重要な力学物性を得ることが可能です。ナノインデンテーション試験(1 mm以下)と比べても圧入深さが数10 mmと十分なため、表面状態に依存せず真の力学物性値の評価が期待できます。Li2S-P2S5系硫化物系固体電解質(75Li2S-25P2S5)と、酸化物系固体電解質(Li0.33La0.57TiO3, Li1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12)の力学物性をインデンテーション法で評価しました。また、グローブバッグで試験装置を覆いArガスを流入させ、不活性雰囲気にて試験を行いました。硫化物系固体電解質のマイヤ硬度(HM =0.66 GPa)と弾性率(E =21 GPa)が求められ、その値は酸化物系固体電解質(HM = ~7.5 GPa, E = ~200 GPa)より小さく、全固体電池作製において優れた機械的性質を持つことが確認されました。

 

<今後の展望>

 研究チームは、不活性雰囲気下におけるインデンテーション試験が、硫化物系固体電解質の力学物性評価に有用であることを明らかにしました。本手法は複雑な加工を必要とせず、微小な試験片に圧子の圧入、除荷を行い、理論式に基づいて解析するだけでマイヤ硬度や弾性率などの重要な力学物性を得ることが可能です。開発した手法で様々な固体電解質材料の力学物性を評価し、データベース化することで、力学物性値に基づく全固体電池設計への展開が期待されます。

 

<用語解説>

(*1) 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言しています。

(*2) 持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)。持続可能な開発のための2030アジェンダの中に記載された、2030年までに持続可能な世界を目指す国際目標です。

(*3) 物質の硬さ(硬度)の指標の一つ。押し込み硬さの一種で、圧子を試料表面に押し込みできたくぼみの投影面積でその荷重を除した値で求められます。値が大きいほど硬いことを表します。

(*4) 変形しにくさを表す物性値。弾性変形領域の応力-ひずみ曲線の比例定数です。値が大きいほど変形しにくいことを表します。

(*5) 縦・横波用振動子を用いて超音波パルスを試験片に伝播させ、試験片内を伝播する縦波・横波伝播速度からヤング率などを計算する方法です。

(*6) 荷重と押込深さの関係から、計算のみで力学物性を評価する手法です。一般に数nm~数百nm程度の微小な圧入深さで評価します。

 

<論文情報>

Kazuhiro Hikima, Mitsuhiro Totani, Satoshi Obokata, Hiroyuki Muto, Atsunori Matsuda, Mechanical Properties of Sulfide-Type Solid Electrolytes Analyzed by Indentation Methods. ACS Applied Energy Materials 2022, 5 (2), 2349-2355, DOI: 10.1021/acsaem.1c03829.

 

謝辞

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING, JPMJAL1301)の支援を受けて行われました。


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