磁性体や液晶などの物質は、内部の分子がらせん状の構造やスキルミオンと呼ばれる渦巻き状の構造を形成する場合があります。これらの構造は、その鏡像と重ね合わせることができない「キラリティ」という性質をもちます。これらキラリティを示す複数の構造を総称してトポロジカル相と呼び、トポロジカル相を電場や磁場で制御することにより、磁気メモリなどへ応用することが注目されています。一方、これらのトポロジカル相をもつ物質の多くは、結晶であるため弾性をもち、トポロジカル相を力学的に制御する可能性も注目されています。しかし、これまでの研究では、トポロジカル相への相転移における、物体の弾性場の役割は明らかにされてきませんでした。
東京大学 生産技術研究所の高江 恭平 特任講師、名古屋大学 大学院理学研究科の川﨑 猛史 講師の研究グループは、トポロジカル相を分子形状およびキラリティに由来する分子間のねじれにより制御可能な分子モデルを提案し、コンピュータシミュレーションにより、相転移における弾性場の発現、および応答の物理的な解明を目指しました。隣り合った分子間に働くねじれの強さを制御することで、ねじれが弱い時は分子の向きが揃った均一相、ねじれを強くすると分子の向きがねじれたらせん相、さらにねじれを強くすると分子が渦状に並んだハーフスキルミオン相へと、トポロジカル相転移を制御することに成功しました。この相転移は、分子配向の変化を伴うものであるため、相転移により物体が変形し、弾性場、すなわち力が発生すること、またその結果として、外から力を与えることで、これらの相を制御できることを明らかにしました。この結果は、電気・磁気のみならず、力学的にも高機能なトポロジカル材料を設計するための基礎的な物理原理を提供するものであり、アクチュエータや圧電素子への応用など実用上のインパクトも大きいと期待されます。
本成果は2022年3月28日にProceedings of the National Academy of Science of the United States of America誌(PNAS、米国科学アカデミー紀要)で公開されました。
Journal
Proceedings of the National Academy of Sciences
Article Title
Emergent elastic fields induced by topological phase transitions: Impact of molecular chirality and steric anisotropy
Article Publication Date
28-Mar-2022