世界中に残されているコガシラネズミイルカは推定10頭であるが、近親交配による絶滅が運命付けられているわけではないことが、Jacqueline Robinsonらによる新しい遺伝子研究により示された。歴史的に、コガシラネズミイルカ集団は長期間小規模であるため、ゲノムワイドな多様性は低いが数万年にわたって安定しており、いくつかの弱い有害遺伝子変異が蓄積しているものの、コガシラネズミイルカ個体は健康なままで繁殖できることが明らかになった。残された動物が漁網によって「混獲」されて殺されないようにできれば、この種が絶滅しない可能性があるとRobinsonらは述べている。コガシラネズミイルカは、世界で最も絶滅の危険にさらされている動物の1つであり、自然保護論者は、コガシラネズミイルカ集団が近親交配によって適応度を失い、種の動物数を増やすことができないのではないかと懸念している。近交弱勢が合理的な懸念であるかどうかを明らかにするため、Robinsonらは、保存組織サンプルから採取した20頭のコガシラネズミイルカのゲノムの配列決定を行い解析した。この知見に基づき、Robinsonらは、混獲による死亡の割合が異なる条件下で、将来のコガシラネズミイルカ集団の成長をシミュレートした。混獲による死亡が完全に停止した場合、絶滅するのはシミュレーション集団のわずか6%である。しかし、混獲による死亡率が80%しか低下しない場合は、シミュレーション集団の62%が絶滅する。関連するPerspectiveで、Catherine GrueberとPaul Sunnucksが、保護の取り組みにおいて、野生集団におけるゲノム多様性と個体の生存を関連付けることの重要性が増していることについて議論する。
Journal
Science
Article Title
The critically endangered vaquita is not doomed to extinction by inbreeding depression
Article Publication Date
6-May-2022