News Release

これまでで最も包括的な組織横断的細胞アトラスを発表:ヒト細胞アトラスコンソーシアムの新たな知見

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

国際ヒト細胞アトラス(Human Cell Atlas:HCA)コンソーシアム(目標はヒトの体内のすべての細胞タイプをマッピングすることであるが、これまでは主に個々の臓器と組織または小さな組織サブセットの細胞の研究に焦点を当ててきた)の研究者が大きな成果を報告した。これまでで最も包括的な組織横断的細胞アトラスとなる、33の臓器の100万個を超える個々の細胞の詳細なマップの作成である。得られたデータは4件の研究で公開されており、一般疾患及び希少疾患、ワクチン開発、抗腫瘍免疫学及び再生医療の理解のために情報を提供するなど、治療に関する多くの意義を有する。

1件目の研究では、Tabula Sapiensコンソーシアムが、24の臓器の400種類を超える細胞タイプの分子定義を示す、特に幅広い細胞アトラスを提供している。彼らはこれを「Tabula Sapiens」データセットと呼んでいる。これをアセンブルするために、著者らは個々のドナーの複数の組織から採取した上皮細胞、内皮細胞、間質細胞、免疫細胞を含む約500,000個の生細胞に対して単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)を用いた。単一ドナー由来の複数の組織の分析が可能であったため、遺伝的背景、年齢、環境曝露、エピジェネティックな影響について制御した組織間比較を行うことができた。Tabula Sapiensデータセットを用いて、同一遺伝子を異なる細胞型に別々にスプライシングする方法や、免疫細胞のクローンを組織全体で共有できる方法などのヒトの細胞生物学に関するいくつかの新たな見識が得られた。

単一細胞アトラスは、疾患遺伝子が人体全体で作用している特定の細胞型のマッピングに役立つことが期待されている。これを構築するには、すべての細胞型のプロファイリングと(scRNA-seqを用いて解析することが困難な細胞を含む)、多数の人に由来する細胞が必要である。これは、組織を採取して凍結した後で解析する必要があることを意味している。このパッケージの2件目の研究では、Gökcen Eraslanらが、単一核RNAシーケンシング(snRNA-seq)を最適化し、凍結細胞を使用するという課題を克服した。Eraslanらはこの技術をドナー16名の健康な臓器8個に由来する凍結サンプルに適用し、200,000を超える核プロファイルの組織横断アトラスを作成した。Eraslanらは機械学習を用いてアトラス内の細胞を数千の単一遺伝子疾患および複合遺伝子疾患と形質に関連付け、疾患に関与しうる細胞タイプおよび遺伝子プログラムを明らかにした。

歴史的に、ヒトの免疫系に関する科学者の理解は、ほとんどが血中を循環する細胞の役割に限定されてきたが、組織内の免疫細胞は健康維持に不可欠である。Cecilia Dominguez CondeらとChenqu Suoらの研究では、組織全体の免疫細胞の機能をよりよく理解するために、成人の免疫細胞と発生中の免疫細胞をそれぞれプロファイリングした。Dominquez Condeらは、scRNA-seqを用いて、12人の成人ドナーの16組織の自然免疫細胞と適応免疫細胞を調査し、300,000個を超える細胞の遺伝子発現プロファイルを得た。また、細胞タイプのアノテーションを補助する機械学習ツール「CellTypist」を開発した。このアプローチにより、これまで過小評価されていた細胞の状態を含め、100万個以上の細胞から約101種類の免疫細胞の種類や状態を特定することができた。最後の研究では、Suoらが9つの出生前組織のscRNA-seq、抗原受容体シーケンシング、および空間トランスクリプトーム解析を用いて、妊娠段階を通して発達中の免疫系の単一細胞および空間アトラスを作成した。この知見は、発生中の免疫系の1つか少数の器官に焦点を当てた研究からの知見を超えて、血液と免疫細胞の発生が、一次造血器官だけでなく、多くの末梢組織にわたって起こることを明らかにしている。

これらの4つの研究とその知見について、関連するPerspectiveでZedao LiuとZemin Zhangがさらに考察している。「まとめると、これらの汎組織研究は、包括的なヒト単一細胞アトラスの構築へとわれわれを近づけている」と彼らは述べている。


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