News Release

パーキンソン病評価用バイオマーカーの開発

Peer-Reviewed Publication

Kobe University

image: Disease onset and changes in P450 expression view more 

Credit: Kohei Ihara and Hiromasa Imaishi

神戸大学バイオシグナル総合研究センターの今石浩正教授、伊原航平学術研究員らと、広島大学大学院医系科学研究科の大黒亜美助教らの研究グループは、血清を用いた迅速・安価なパーキンソン病評価用のバイオマーカーの開発に成功しました。今後の高齢化社会を迎えるにあたり、より迅速な疾患の評価が可能となることから、新たな治療薬の開発などにも繋がることが期待されます。

この研究成果は、4月22日に、Springer Nature社のオープンジャーナル「Scientific Reports」に掲載されました。

ポイント

  • 今後の超高齢化社会を考えると、高齢化に伴い神経変性疾患の罹患者が増加すると考えられています。
  • 神経変性疾患の一つであるパーキンソン病を簡便に評価出来る診断法はこれまで開発されていませんでした。
  • 現在、多様な疾患の評価については、病気の有無や進行度、また、投薬などによる治療効果などを明らかにするための“バイオマーカー”が開発されています。
  • 今回、本研究グループでは、わずか30μl程度の血清を用いることで、簡便かつ安価なパーキンソン病評価用のバイオマーカーを開発する事に成功しました (世界初)。
  • 今後、本バイオマーカーを利用することで、パーキンソン病の診断や治療薬の開発、また、パーキンソン病発症の分子メカニズムの開発などが進むことが期待されます。

研究の背景
日本の人口高齢化率は世界の中でも高水準で推移しており、高齢者の生活の質(Quality of Life:QOL)の低下や介護現場の逼迫が問題となっています。加齢とともに、様々な疾患を発症するリスクが増加しますが、特にパーキンソン病などの神経変性疾患は、発症者のQOLを著しく低下させることが問題となっています。また、パーキンソン病は2番目に一般的な神経変性疾患であることから、60歳以上の人口の約1〜2%に影響を及ぼしていると考えられています。さらに、パーキンソン病の世界市場だけでも2030年では199億USドル(229兆円※治療薬も含める)と予測されています。

現段階では、パーキンソン病を根治できるような治療薬は存在していないため、早期発見を行うことで進行を止めることが非常に重要です。また、他方では様々な創薬企業が治療薬の開発に取り組んでいることから、今後より一層の早期発見が重要となることも予測されています。そういった状況から、パーキンソン病に対する簡便かつ負担の少ないスクリーニング手法の開発が急務とされています。さらに、これら初期のスクリーニングには、特に安価で手軽な検査手法が求められていました。

研究の内容
体外から取り込まれた薬物をはじめ、様々な物質の酸化反応を触媒する薬物代謝酵素シトクロムP450(注1)は、様々な種類の疾患の発症時において、体内での発現量が変化することが知られています。これらP450の発現量の変化によって、患者の体内ではP450に関連する物質の量や質が変化すると考えられます(図1)。本研究グループでは、疾患の発症によって生体内に生じたP450関連の物質量やそれらの質を簡便に検出する方法、「P450蛍光阻害アッセイ法」を確立しています。今回、この手法をパーキンソン病(注2)の診断へと適用することに世界で始めて成功しました。

本研究で開発した「P450蛍光阻害アッセイ法」は、健康な人や患者から採取した血清 (注3) と12種類のP450、蛍光性基質をそれぞれ混合することで反応を行わせます (図2-①)。このとき、健康な人と患者の血清に含まれるP450に関連する物質の量や質が変化します。図2の場合、健康な人の血清では、P450により、蛍光性基質が反応して蛍光物質が生じますが、患者から回収した血清を反応させると健常者とは異なった反応を示し、得られる蛍光値が変化します (図2-②)。「P450蛍光阻害アッセイ法」はこの変化を検出することで疾患の有無を判別する、これまでになかった新しいリキッドバイオプシー (注4) 技術です。

本研究では、本研究グループが独自に開発したこの「P450蛍光阻害アッセイ法」を利用しました。具体的には、パーキンソン病の診断が可能かどうかを評価するため、パーキンソン病のモデルラットと、ヒトパーキンソン病患者の検体に対してP450蛍光阻害アッセイを行いました。その結果、パーキンソン病モデルラット、およびヒトパーキンソン病患者のいずれについても、85~88%の精度で健常者と患者を分類することができました (図3)。

今後の展開

今回の結果から、P450蛍光阻害アッセイ法がパーキンソン病の診断に応用できる可能性があることが示されました。P450蛍光阻害アッセイ法は、使用する血清が30μl程度と少なく、比較的安価に検査が行えるため、パーキンソン病のスクリーニング検査として有用であると考えられます。今後は、さらに規模を大きくした臨床性能評価試験を実施し、実用化を目指した研究を行っていく予定です。

用語解説
注1 シトクロムP450:

様々な薬物の代謝やステロイドホルモンなどの生合成を触媒するヘムタンパク質。非常に多くの物質に対する酸化反応を行うことが知られている。特にヒトでは、57種類のP450分子種が存在することが知られている。P450の多くは主に肝臓で発現するが、肺や消化管、脳などでも発現して機能している。
注2 パーキンソン病:
厚生労働省の指定難病の一つで、脳の運動機能をつかさどる神経系が死滅していく病気。高齢者に多く見られる疾患で、手足の震えや筋肉の固縮、動作緩慢などの症状が現れ、車いすでの生活や寝たきりになる大きな原因の一つとして知られる病気。
注3 血清:
血液が凝固した際に生じる上澄みにできる淡黄色の液体。血清は、血液中の成分などを検査する際に一般的に用いられる検体。
注4 リキッドバイオプシー:
血液や尿、唾液などの体液を使って病気の診断や検査を行う技術のこと。患者への負担が少なく、近年注目されている検査方法。

謝辞
本研究は、科学研究費補助金 (若手研究) (課題番号:20K20223) および、住友電工グループ社会貢献基金大学講座寄附の援助を受け行われました。

論文情報
タイトル

Diagnosis of Parkinson's disease by investigating the inhibitory effect of serum components on P450 inhibition assay
DOI:10.1038/s41598-022-10528-x
著者
Kohei Ihara1, Ami Oguro2, Hiromasa Imaishi1
1 Division of Signal Responses, Biosignal Research Center, Kobe University
2 Program of Biomedical Science, Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University
掲載誌
Scientific Reports


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