News Release

大腸菌など微小な細菌を姿の違いで自律的に分離

高精度なマイクロ流体デバイスを初めて開発 ~創薬、治療法の開発や生命科学研究の質向上に期待~

Peer-Reviewed Publication

Nara Institute of Science and Technology

image: The design of the viscoelastic microfluidic device for shape-based separation of drug-treated E. coli. Schematics of the microfluidic device used for E. coli separation by shape. view more 

Credit: Yalikun Yaxiaer

【概要】

奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 物質創成科学領域の細川 陽一郎教授、ヤリクン ヤシャイラ准教授、岡野和宣研究員とオーストラリア・マッコーリー大学のLi Ming講師らは、微小なサイズの大腸菌など細菌でも姿の違いを自律的に分類・分離できるマイクロ流体デバイスの開発に初めて成功しました。高速で流しても水のような粘度が変わらない液体(ニュートン流体)に菌を含ませ、粘度が変化する液体(非ニュートン流体)のポリエチレンオキシド(PEO)を流し込んで、両者の間に生じる相互作用を応用した技術です。試薬に対し細菌の形状に違いが出る原因の探究、個体の特異性調査などの実験を行ことが可能となります。創薬、疾病治療の研究に加えて、生命科学研究の質や効率の向上が期待されます。今回の研究成果は、2022年6月3日にLab on a Chip誌(Royal Society of Chemistry, London)に掲載されました。

【解説】

菌類は、ヒトの共生菌から病原菌まで多種で、さまざまな役割を果たしています。例えば大腸菌はヒトの胃腸管にコロニーで生存しており、うまく人と共存して特定の炭水化物の分解に重要な役割を果たしています。しかし、ベロトキシンという毒素を産生するものや病原性大腸菌もあります。また、遺伝子の発現、蛋白質の大量生産など様々な研究に、最も使用されている生物でもあり、その形状は菌類の特性と密接に関係しているため、形状の調査に重要な意義があります。

【今までの問題点】

これまで、大腸菌など細菌類の分取方法はフィルタリング(濾過など)、遠心分離、または光学的に分類するフローサイトメトリーなどの技術がメインでしたが、サイズが1マイクロメートル前後の大腸菌1個ずつの形状を認識し、形状ごとに効率よく分取する方法はありません。一方で、極めて微量な液体を扱うマイクロ流体デバイス技術ではこのような膨大な数の微小な生体試料の形状・サイズによる分取が実現できるものの、既存の技術を用いる場合、デバイスとシステムが複雑になって微小な構造体を有するマイクロ流路が詰まりやすくなるため、大規模で効率的に普及するのは困難でした。

【本研究の目的と得られた解決方法】

本研究では、従来のマイクロ流体デバイスに使われる水のようなニュートン性流体だけではなく、非ニュートン性流体(粘弾性流体)を導入して利用しています。非ニュートン性流体では、ニュートン性流体と違い、粒子が一様には分散せず、異なる形状ごとに流れる方向に対し垂直の剪断方向へ自ずと配列します。このような、マイクロ流体中での微粒子の挙動を利用して、単純な構造の流路に異なる形状を有するサンプルを通過させるだけで自律的に、形状ごとに分離させる技術が実現できます。

今回は、精密加工されたマイクロスケールの流路に薬品の処理により、さまざまな形状になった大腸菌を流したところ、アスペクト比が低い(大腸菌の幅に対する長さの割合)大腸菌はアスペクト比が高い大腸菌と比較してより流路中央に近い位置を流れることになりました。この現象を利用して、マイクロ流路の位置ごとに異なる流路に誘導する分岐流路を組み合わせることで、大腸菌を形状アスペクト比ごとに分離することが可能となりました。

開発したマイクロ流体デバイスは、直線上の流路と断面が徐々に広がった形状の流路、出口流路の3種類の流路で構成されており、このデバイスを用いることで低アスペクト比の大腸菌(アスペクト比1)は97.6%、高アスペクト比の大腸菌(アスペクト比>2)は80%の純度で分離できました。

【本研究の意義】

この技術により菌類の一種である大腸菌を、形状ごとに分類することが可能であることを示しました。また、デバイス構造が単純なため低コスト化や量産化が容易であり、これを応用することにより、創薬、疾病治療、さらに生命科学研究の質や効率の向上が期待されます。

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【掲載論文】

タイトル: Shape-based separation of drug-treated Escherichia coli using viscoelastic microfluidics

著者: Tianlong Zhang, Hangrui Liu, Kazunori Okano, Tao Tang, Kazuki Inoue, Yoichi Yamazaki, Hironari Kamikubo, Amy K Cain, Yo Tanaka, David Inglis, Yoichiroh Hosokawa, Yalikun Yaxiaer & Ming Li

掲載誌: Lab on a Chip

【研究室ホームページ】

https://mswebs.naist.jp/courses/list/labo_11.html

【補足説明】

マイクロ流体デバイス:半導体微細加工技術や精密機械加工技術を用いて作製された、幅・深さが数μm~数100μm程度の流路構造(髪の毛の直径は200μm)を集積してあるチップ状のデバイスです。

非ニュートン流体:流れの剪断応力(接線応力)と流れの速度勾配(ずり速度、剪断速度)の関係が線形ではない粘性の性質を持つ流体のこと。


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