News Release

絵画配色の好みは色彩統計量で決まる

「自然に似ている」ことは配色の好みを説明できない

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

絵画配色に対する選好の度合いと色彩統計量の関係

image: 絵画配色に対する選好の度合いと色彩統計量の関係 view more 

Credit: COPYRIGHT (C) TOYOHASHI UNIVERSITY OF TECHNOLOGY. ALL RIGHTS RESERVED.

<概要>

豊橋技術科学大学 中内茂樹 教授の研究チームは、日本人31,353人を対象に、合計1,200作品の絵画の配色に対する選好について、人為的に配色を操作した絵画を用いて実験的に調べました。また、これら絵画配色の特徴である色彩統計量を計算により求め、その傾向についても調べました。その結果、絵画の配色のパターン(統計量)は絵画のジャンルに依らず、共通した傾向を示すとともに、人はそのパターンに近い配色を好むことがわかりました。また、このように原画の配色が好まれる理由として、普段目にすることが多い自然風景に似ているからではないかと予想されていましたが、実際には絵画配色と自然風景の間には系統的な違いがあり、絵画の色使いは自然の真似ではなく、独自のものであることが分かりました。本研究の成果は、配色に対する好みの予測といった応用にとどまらず、なぜ人が特定の配色パターンに惹かれるのか、好みや魅力とは何であるかといった根源的な問いへの手がかりを与えています。

 

<詳細>

 さまざまな特徴のなかでも、色は好みに最も影響を与える視覚属性の1つであると言われています。「蓼食う虫も好き好き −‘beauty is in the eyes of the beholder’」という言葉があるように、好みは人それぞれ異なると考えられていますが、最近、豊橋技術科学大学中内教授の研究グループが、見たことが無い絵画であっても、色相を変化させた偽物よりも画家が描いた本来の配色を多くの人が好むことを実験的に明らかにしています。しかし、なぜ人は特定の絵画の配色を好むのか、絵画の配色にどのような普遍的な特徴が存在するのか、その背後にあるメカニズムについては未解明のままでした。

 本研究ではまず、3万人を超える実験参加者に対して、1,200枚の絵画を対象に、原画と90度、180度、270度色相を回転させた3種類の偽物、合計4種類に対する選好(四肢強制選択法による選択率)を計測しました(図1a)。次に、実験に用いた画像4,800枚を対象に、それらの画像に含まれている色の分布を表す12種類の統計量(平均や分散、相関、歪度)を求め、これら色彩統計量と、その画像がどれくらい好まれたのかを表す選択率(実験参加者のどのくらいの割合の人がその画像を好んだか)の関係を重回帰分析により調べました(図1b)。その結果、その画像を好む人の割合は、その画像の特定の色彩統計量が関連していることを突き止めました。具体的には、特に赤-緑の歪度 (skewness of a*)、明度と青-黄の相関 (correlation between L* and b*)、赤-緑と青-黄の相関 (correlation between a* and b*)が好みと関連していることが判明しました。

 なぜこのような特定の色彩統計量が配色の好みと関わりがあるのでしょうか?中内教授らの研究グループは、これまでの多くの研究者が提唱している、絵画配色は自然風景の色合いに似ているという‘matching-to-nature'仮説に着目しました。この考えによれば、画家は知らず知らずのうちに、普段目にすることが多い自然風景の特徴を、自らが描く絵の中に埋め込んでおり、そのために見たことが無い絵画であっても原画配色を好み、色相を回転してしまうとそうした特徴が失われるため、偽物の配色を好まなかった、という推測が成り立ちます。

 もしこの考え方が正しければ、選好実験と重回帰分析で明らかになった、選好と関係が深い重要な色彩統計量は自然風景のそれと似ているはずです。この研究では、この仮説を直接確かめるために、人工物が映っていない自然画像1,200枚を対象に、色彩統計量を求め、絵画の色彩統計量と比較しました。その結果、配色の好みと関連している統計量は、自然風景とは系統的に異なる分布を示すことが分かりました(図2)。つまり、絵画の配色は自然風景の単なる模倣ではなく、絵画配色として固有の特徴が存在し、そのことが観察する人の好みや配色の魅力と関係しているということが初めて明らかになりました。

 

<今後の展望>

 今回の配色選好に関わる色彩統計量の発見により、絵画に限らずさまざまな対象についても、配色に対する魅力を色彩統計量から推測できる可能性があります。また、配色に対する魅力がどのような生物学的な価値と結びついているのか、そうした根源的な問題に応えるための新たな研究へと発展することが期待されます。

 

<謝辞>

本研究は科学研究費補助金(基盤研究(A) JP19H01119; 学術変革領域研究(A) 20H05956;研究活動スタート支援 JP21K21315)の助成を受けて行われました。

 

<論文情報>

論文タイトル:Regularity of colour statistics in explaining colour composition preferences in art paintings. 

著者名:Shigeki Nakauchi, Hideki Tamura

雑誌:Scientific Reports 12, 14585 (2022).

DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-18847-9


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.