News Release

「バイオリアクター回転浮遊培養によるiPS細胞からのヒト腸オルガノイド作成法の開発」 ― 腸組織再生医療における基盤技術の創出を目指して ―

Peer-Reviewed Publication

Tokyo Medical and Dental University

image: Dr. Junichi Takahashi grows suspension HIOs in the rotational bioreactor. view more 

Credit: Department of Gastroenterology and Hepatology, TMDU

 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の水谷知裕講師、髙橋純一大学院生と岡本隆一教授らの研究グループは、東京医科歯科大学学術顧問・副学長、高等研究院の渡辺守特別栄誉教授らとの共同研究で、バイオリアクターによる回転浮遊培養系を用いて、iPS細胞由来のヒト腸オルガノイドを完全浮遊状態で誘導、成熟させる技術の開発に世界で初めて成功しました。当研究グループが目指す難病腸疾患に対する再生医療の開発の実現に向けて、大きな一歩となることが期待されます。この研究は、日本医療研究開発機構(AMED) 再生医療実現拠点ネットワークプログラム(再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発課題(基礎応用研究課題)) 「iPS細胞を用いた自己組織化による複合型機能性ヒト腸管グラフト製造法の開発」(水谷知裕: JP22bm1123007)、技術開発個別課題 「iPS 細胞を用いた機能的ヒト腸管グラフト構築・製造法の開発」(岡本隆一: JP19bm0404055)、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「上皮細胞サーキュレーションによる疾患制御イノベーション」(水谷知裕: JPMJFR2113)、日本学術振興会(JSPS) 科研費等の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Cell Reports Methodsに、2022年11月15日にオンライン版で発表されました。

 

【研究の背景】

 潰瘍性大腸炎やクローン病といった難治性の炎症性腸疾患や、小児の先天性疾患などにおいて、広範な腸管切除を余儀なくされるケースでは、「短腸症候群」と呼ばれる腸機能の欠損によりそのQOLが著しく害されることがあります。根本的治療である小腸移植は、ドナー不足や移植後の拒否反応などから未だ広く行われる治療とはなっていません。そこで、臓器移植に替わる手段として、iPS細胞など多能性幹細胞から体外で臓器を作出する試みに期待が寄せられてきました。iPS細胞から、幹細胞の3次元的培養法であるオルガノイド培養を利用した誘導により、ヒト腸オルガノイドを作成する方法は報告されていましたが、その誘導手法は煩雑で、誘導されるスフェロイドのサイズも均一でなく、3次元培養を要することからも大型のオルガノイドを作出するのは困難でした。

 

【研究成果の概要】

 研究グループは、iPS細胞からヒト腸オルガノイドを誘導する既存の手法を改良し、誘導細胞を単一に分散し、特殊な低接着性のスフェロイド形成プレート上に播種したところ、浮遊状態のまま自律的に融合し、球状の腸スフェロイドが誘導されることを見出しました。このスフェロイドは、既報のものがiPS細胞から誘導の過程で遊離してくる不揃いなものであるのと異なり、均一な球状であり、細胞の性質の均質であることがわかりました。また、プレートの形状や播種する細胞数を変えることで、任意のサイズのスフェロイドを作成できることも可能となりました。既存の腸スフェロイドはゲル内で3次元的に培養する必要がありますが、本法で誘導されたスフェロイドは、浮遊状態のまま生育させることが可能であると明らかになりました。浮遊状態での生育に最適な培養条件を見出すとともに、3次元培養の必要性がなくなったことで培養における空間的制約がなくなったため、より大型のスフェロイドを誘導し、浮遊状態でさらに生育させることを試みました。すると、回転型のバイオリアクターを使用することで大型の浮遊スフェロイドを効率的に生育し、腸オルガノイドへと成熟させることができました。このように、全ての過程を浮遊状態で誘導、培養した浮遊腸オルガノイドは、既報と同様に免疫不全マウスの腸間膜へと移植することで成熟したヒト腸組織を構築しうることが証明されました。

 

【研究成果の意義】

 本研究では、全工程を浮遊状態でiPS細胞からヒト腸オルガノイドを誘導、成熟させることに成功しました。単一細胞に分散したiPS細胞から非常に均質な腸スフェロイドが誘導されることは、経験に基づき用手的に誘導されたスフェロイドを分取する既存の手法と比較して、安定的かつ効率的に腸スフェロイドを誘導することが可能となります。また、任意の大型スフェロイドを誘導できるだけでなく、回転型バイオリアクターを利用することで、大型スフェロイドを浮遊状態のまま腸オルガノイドへと成熟させることができました。これらの成果は消化管再生医療を実現化するにあたり、再現性の高い誘導技術と空間的成約のない培養技術によって、効率的で有用な基盤技術となることが期待されます。

 

 

【用語解説】

※1オルガノイドは、臓器を形成する幹細胞とその分化した細胞からなる球状の細胞集塊で、体外で3次元構造を成し、臓器のミニチュアのように同様の構造と機能を備えています。ヒト腸オルガノイドは、iPS細胞からオルガノイド培養を用いて腸細胞に誘導されたもので、実験用マウスに移植されると体内で成熟したヒト腸組織を構築することができます。

※2バイオリアクターとは、細胞の培養、成熟、組織構築を促すための培養機器のことです。本研究では、回転するガス透過性のあるシリンジ型リアクターを採用し、大型のオルガノイドに適切な培養因子の供給やガス交換を促すことでその成熟を促進しています。


Disclaimer: AAAS and EurekAlert! are not responsible for the accuracy of news releases posted to EurekAlert! by contributing institutions or for the use of any information through the EurekAlert system.