News Release

インターロイキン11は潰瘍性大腸炎モデルマウスの病態の軽減に働く

線維芽細胞とミエロイド系細胞の相互作用が病態の鍵であることを発見

Peer-Reviewed Publication

Toho University

image: In an undamaged large intestine, IL-11-producing cells (Yellow) are not seen. However, in the damaged area, IL-11-producing fibroblasts appear. view more 

Credit: Takashi Nishina

東邦大学医学部生化学講座の仁科隆史助教、中野裕康教授らの研究グループは、潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いた解析から、大腸炎に伴い線維芽細胞より分泌されるタンパク質インターロイキン11(IL-11)が大腸炎の軽減に寄与することを見出しました。さらにこの線維芽細胞によるIL-11の産生が、免疫細胞の一つであるミエロイド系細胞によって制御されていることを明らかにしました。今回の発見は、今まで不明だった炎症性腸疾患における新たな線維芽細胞の働きを見出しただけでなく、線維芽細胞を介した新たな細胞間相互作用を明らかにしたものです。
 大腸の恒常性は、上皮細胞や、免疫細胞、間質に存在する線維芽細胞により維持されていると考えられていますが、その恒常性維持機構に関して不明な点が多いのが現状です。本成果は大腸の恒常性機構だけでなく炎症性腸疾患の病態を理解する上で重要になると考えられます。

 この成果は2023年1月4日に雑誌「iScience」(電子版)に掲載されました。

発表者名

仁科 隆史(東邦大学医学部生化学講座 助教)
中野 裕康(東邦大学医学部生化学講座 教授)

発表のポイント

  • 潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いた解析から、大腸炎に伴って産生誘導されるIL-11が大腸炎に対して抵抗性に働く分子であることを見出しました。
  • IL-11は、大腸に存在する線維芽細胞より産生され、その産生は免疫細胞であるミエロイド系細胞による酸化ストレスによって制御されていることを見出しました。
  • IL-11は、ヒト炎症性腸疾患において治療抵抗性に働く分子であると考えられていましたが、実際は粘膜保護に働く分子であることが明らかとなりました。また、IL-11産生において腸管に存在する線維芽細胞とミエロイド系細胞との相互作用の重要性が示唆されたことから、より詳細に細胞間の相互作用の機構を理解することが炎症性治療疾患の治療戦略を考える上で、重要であると考えられました。

発表内容

研究背景
 腸管を構成する上皮細胞は常に、腸内細菌や食事由来の外来性抗原にさらされており、腸管上皮細胞自身の修復機構や、腸管上皮細胞周囲に存在する免疫細胞などが適切に働くことで、腸管上皮細胞へのダメージは適切に管理されていると考えられています。また、腸管上皮細胞の周囲に存在し結合組織を構成する線維芽細胞が、腸管上皮細胞の恒常性の維持や免疫応答に重要な役割を担っていることが示唆されています。近年、ヒトの患者検体を用いた研究から、炎症性腸疾患の治療抵抗性に働く細胞として、IL-11産生線維芽細胞が見出されました。しかしながら、大腸炎に伴って産生されるIL-11自身の役割に関しては明らかになっていませんでした。

 研究グループはこれまでに、酸化ストレス(注4)依存性に産生誘導される分子の一つとしてIL-11を同定し、酸化ストレスに伴って産生された組織修復因子として働くことを見出してきました(Sci. Signal., 2012、J. Biol. Chem., 2017)。また、IL-11産生をin vivoで可視化できるレポーターマウス(注5)を樹立し解析を行った結果、正常の組織においては、マウス大腸組織においてIL-11産生細胞は認められなかったものの、大腸がん形成時、ならびに大腸炎時においては、主に線維芽細胞がIL-11を産生していることを明らかにしてきました(Nat. Commun., 2021)。今回研究グループは、潰瘍性大腸炎のモデルマウス(注6)として用いられているデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性大腸炎モデルを用いて、大腸炎におけるIL-11の内在的な役割を解析しました。

今回の成果
 IL-11の受容体が欠損してIL-11が働かないマウス、ならびに研究グループが作製したIL-11自身がないマウスを用いて、DSS誘導性大腸炎モデルを作製し解析を行いました。その結果、通常飼育下では大腸などにおいて顕著な異常が認められないIL-11が働かなくなったマウスでは、大腸炎に伴う腸管上皮細胞の細胞死が亢進し、大腸炎の病態が悪化することが明らかとなりました。
 一方で、研究グループは大腸炎に伴って傷害を受けた腸管上皮細胞の近傍でIL-11が線維芽細胞より分泌されることを見出していたことから、研究グループが作製したIL-11の産生を生体で可視化できるレポーターマウス、ならびに免疫細胞が欠損した様々な種類のマウスを用いてIL-11の産生機構を解析しました。その結果、免疫応答を制御するT細胞や3型自然リンパ球(注7)などを欠損させてもその影響は認められませんでしたが、マクロファージや好中球などを含むミエロイド系細胞を大腸炎時に特異的に欠損させたときに、IL-11の産生が減少することが明らかとなりました。また組織学的な解析から、線維芽細胞がマクロファージなどの細胞と近接して存在していることを見出しました。さらに、ミエロイド系細胞によって亢進した酸化ストレス、ならびに酸化ストレスに付随して活性化したMAPキナーゼ経路(注8)の一つであるMEK-ERK経路の活性化が、IL-11産生に寄与していることを見出しました。

本研究成果が社会に与える影響
 過去の研究から、IL-11はヒト炎症性腸疾患において治療抵抗性に働く分子であると考えられていましたが、実際は粘膜保護に働く分子であることが明らかとなりました。また、腸管に存在する線維芽細胞とミエロイド系細胞との相互作用がIL-11産生に重要であることが示唆されたことから、より詳細に細胞間の相互作用の機構を理解することが炎症性腸疾患の治療戦略を考える上で、重要であると考えられました。

 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」研究開発領域における研究開発課題「NASHにおける肝リモデリングを制御する細胞間相互作用の解明と革新的診断・治療法創出への応用」(21gm1210002)(研究開発代表者:田中稔、研究開発分担者:中野裕康)、日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究B(20H03475)(中野裕康)、基盤研究C (19K07391、22K06932)(仁科隆史)、公益財団法人武田科学振興財団(仁科隆史)、公益財団法人上原記念生命科学財団(仁科隆史)、公益財団法人持田記念医学薬学振興財団(仁科隆史)、公益財団法人SGH財団(仁科隆史)、公益財団法人小柳財団(仁科隆史)、公益財団法人沖中記念成人病研究所(仁科隆史)、公益財団法人UBE学術振興財団(仁科隆史)、金沢大学がん進展制御研究所共同研究(仁科隆史、中野裕康)、東邦大学ダイバーシティ推進センター支援事業(仁科隆史)、日本私立学校振興・共済事業団 学術研究振興資金(中野裕康)、東邦大学重点領域研究補助金(中野裕康)などの支援により行われたものです。

 

発表雑誌

  1. 雑誌名
    「iScience」(2023年1月4日)

    論文タイトル
    Interleukin 11 confers resistance to dextran sulfate sodium-induced colitis in mice

    著者
    Takashi Nishina*, Yutaka Deguchi, Mika Kawauchi, Chen Xiyu, Soh Yamazaki, Tetuo Mikami, Hiroyasu Nakano* (*共同責任著者)

    DOI番号
    10.1016/j.isci.2023.105934

    論文URL
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004223000111

 

用語解説

(注1)インターロイキン11(IL-11)
細胞から放出されるタンパク質(サイトカイン)の1種類であり、IL-6サイトカインファミリーに属します。IL-6と受容体を一部共有しており、IL-6と類似した信号を細胞の中に導入するが、発現する細胞や受容体の発現する細胞はIL-6とIL-11とでは異なります。

(注2)線維芽細胞
結合組織を構成する細胞の1つです。組織損傷時にはコラーゲンなどの細胞外マトリックス(基質)を産生するだけでなく、様々な液性物質を分泌することで免疫応答や周りの細胞の分化、増殖を促す働きがあることが近年明らかになってきていています。

(注3)ミエロイド系細胞
白血球は、大きくリンパ球系細胞とミエロイド系細胞に分けられます。ミエロイド系細胞には異物を貪食(どんしょく)する作用や活性酸素種などによる殺菌作用を持つマクロファージや好中球、樹状細胞などが含まれます。

(注4)酸化ストレス
生体では、酸素を消費する過程で副産物として活性酸素が発生します。通常、発生した活性酸素は、抗酸化物質、抗酸化酵素により除去されますが、過剰に活性酸素が発生することがあり、この様な状況を酸化ストレスと言います。活性酸素種は、細胞膜を構成する不飽和脂肪酸やDNA、タンパク質と反応することで細胞に損傷を与えます。一方で免疫細胞などでは、積極的に活性酸素種を産生する酵素が存在し、産生された活性酸素種が感染防御に重要な働きをしています。また、活性酸素種は、細胞の分化やシグナル伝達に関与する有益な働きがあることも明らかとなってきています。

(注5)レポーターマウス
ある遺伝子の発現を可視化するために発現を可視化したい遺伝子の発現制御領域下に蛍光タンパク質をコードしたDNAを挿入したトランスジェニックマウスです。このトランスジェニックマウスでは、目的の遺伝子の発現と同調して、蛍光タンパク質が産生され、これにより細胞が蛍光を発します。

(注6)潰瘍性大腸炎モデルマウス
潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患のひとつです。これは、大腸の粘膜に炎症が起きることによりびらんや潰瘍ができる原因不明の慢性の病気で難治性疾患のひとつです。潰瘍性大腸炎の動物モデルとして、デキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS)誘発性大腸炎モデルがあります。飲料水でDSSを投与すると、再現性よく大腸で炎症が誘発されます。

(注7)自然リンパ球
自然リンパ球は、T細胞やB細胞などと共通のリンパ球系前駆細胞に由来する細胞です。リンパ球系細胞ですが、T細胞やB細胞とは異なり、抗原特異的なT細胞受容体やB細胞受容体を持たない細胞ですが、T細胞と同様なサイトカインなどを産生し、組織の恒常性維持や炎症反応に関わることが明らかとなってきています。3型自然リンパ球は、IL-22やIL-17といったサイトカインを産生することで腸管での抗菌ペプチド産生や上皮細胞の生存を制御していることが報告されています。

(注8)MAPキナーゼ経路
細胞内の情報伝達を担う仕組みの一つとして、MAPキナーゼ(MAPK)経路と呼ばれるシグナル伝達経路があります。MAPK経路は、MAPKKK、MAPKK、MAPKという3種類のタンパク質リン酸化酵素(タンパク質をリン酸化する作用を持つ酵素)によって構成されるシグナル伝達システムです。細胞外環境の様々な変化によって生じたシグナルはMAPKKK、MAPKK、MAPKの順にシグナルを伝わっていき、最終的に様々な遺伝子の発現量を変化させることで、細胞の増殖、分化などが制御されます。MEK-ERK経路はこのMAPキナーゼ経路を構成する経路の一つで、増殖因子受容体などによっても活性化されることが知られています。

 


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