News Release

全固体リチウム硫黄電池の電解質分解挙動の解明

高性能化に向けた界面設計を加速

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

全固体リチウム硫黄電池の酸化還元反応の科学

image: 全固体リチウム硫黄電池の微分容量曲線に基づいた酸化還元ピーク(上) 正極複合体内の固体電解質分解挙動(下) view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学専攻 博士後期課程 蒲生 浩忠、引間 和浩 助教、松田 厚範 教授の研究グループは、全固体リチウム硫黄電池の正極複合体中の電解質分解挙動を解明しました。全固体リチウム硫黄電池における正極複合体内の硫化物固体電解質は、充放電サイクルを介して、長鎖の架橋硫黄を含むチオリン酸に変換されることが分かりました。さらに、この分解生成物が、全固体リチウム硫黄電池の電池性能全体を支配していることが明らかになりました。本研究成果は、Chemistry of Materialsに2022年12月15日付けでオンライン公開されました。

(https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.chemmater.2c02926)

 

<詳細>

今日、電気自動車市場の拡大に伴い、車載用蓄電池の開発が急務となっています。全固体リチウム硫黄電池は、高容量正極活物質である硫黄(S)や硫化リチウム(Li2S)を用いるため、高エネルギー密度を有する次世代電池として期待されています。全固体リチウム硫黄電池の高性能化には、正極活物質と硫化物固体電解質、導電助剤(炭素材料)を複合化した正極複合体内に十分なイオン・電子伝導経路を構築する必要があります。しかし、硫化物固体電解質によるイオン伝導経路の形成が不十分であるため、電池性能が制限されているのが現状です。また、硫化物固体電解質は全固体リチウム硫黄電池の動作電圧範囲で酸化分解します。固体電解質の過度な分解は、正極内のイオン伝導経路の損失を招き、容量劣化を引き起こします。したがって、全固体リチウム硫黄電池における電池性能の向上には、正極複合体内の硫化物固体電解質の分解挙動を理解することが重要です。硫化物固体電解質は酸化分解後、酸化還元活性な分解生成物に変換され、可逆的な酸化還元反応を示すことが報告されています。しかし、全固体リチウム硫黄電池における硫化物固体電解質の分解挙動は未だ不明瞭です。

そこで、研究グループは、正極活物質Li2Sと硫化物固体電解質Li3PS4、炭素材料を遊星型ボールミリングで混合した正極複合体を作製し、正極複合体について電気化学測定及びラマン分光測定を行い、全固体リチウム硫黄電池の充放電中の電解質分解挙動を解析しました。

基礎的な電気化学測定から、全固体リチウム硫黄電池の酸化還元反応は、正極活物質の酸化還元反応以外にLi3PS4の酸化分解、Li3PS4の分解生成物の酸化還元反応を含むことが分かりました。長期サイクル後、正極活物質は電気化学的な活性を失い、Li3PS4の分解生成物のみが酸化還元反応を示しました。したがって、全固体リチウム硫黄電池の長期的な電池性能はLi3PS4の分解生成物の電気化学的な酸化還元活性に支配されます。20サイクル後の正極複合体についてラマン分光測定を行ったところ、S-S結合に由来するピークが検出されました。これらの実験結果から、全固体リチウム硫黄電池は、充放電過程を経て正極活物質と硫化物固体電解質が反応し、長鎖の架橋硫黄を含むチオリン酸に変換されることが示されました。

 

<今後の展望>

今回、硫化物固体電解質の分解挙動が全固体リチウム硫黄電池の電池性能全体を支配することを明らかにし、正極活物質/固体電解質界面の制御が重要であることを実証しました。今後は本研究成果に基づいて、正極複合体中の硫化物固体電解質の分解反応を抑制するための界面設計指針を確立したいと考えています。

 

<論文情報>

Hirotada Gamo, Kazuhiro Hikima, Atsunori Matsuda (2022). Understanding Decomposition of Electrolytes in All-Solid-State Lithium- Sulfur Batteries.

Chemistry of Materials, 10.1021/acs.chemmater.2c02926.

本研究は、JSPS特別研究員奨励費(JP21J12809)の助成を受けて実施されました。

 


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