News Release

特集号:機械知能の世界

Reports and Proceedings

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

Scienceの本特集では、Perspective、Policy ForumおよびReviewを含む9本の論文で、最近の人工知能(AI)技術の進歩について、それらがどのように活用されて人間の健康から動物の行動に至る幅広いトピックの新たな疑問に答えているかについて取り上げる。ただし、これらの分野における近年の幅広いAI導入には、固有の倫理的な問題や政策課題がないわけではない。Scienceの副編集長であるGemma Aldertonは、「科学や社会における最前線のAI活用法に目を向けることで、大きな課題や利点が多く見えてくる」と述べている。

 

AIが医用画像から予測する人種変数は、医療格差を研究する上でリスクと機会をもたらす、とPerspectiveでJames Zouらが述べている。現在、健康リスクの評価や、がんなどの病気の診断といった様々な医療業務に、何百ものAI医療機器が使われている。一部の研究が、AIモデルは胸部X線画像や心エコー図などの医用画像から直接、人種変数 ―― 単純化された粗いカテゴリーではあるが ―― を推定できることを示している。一方で、これらの画像から人間が判読できる、人種と相関関係がある既知のものはない。Zouらは、「人種変数は医学において一般的に意味のあるカテゴリーではないが、医用画像から人種変数を予測できるAIの能力は、医療格差をモニタリングしたり、多様な集団にわたってアルゴリズムがうまく機能することを確認したりするのに役立つ可能性がある」と述べている。2本目のPerspectiveではMatthew DeCampとCharlotta Lindvallが、AIおよび医療におけるバイアスの検討が、いかにしてデータセットや分析、あるいはAI開発チームにおけるバイアスの排除につながっているかに焦点を当てている。ただし、DeCampとLindvallは、臨床医と患者がAIベースのアルゴリズムをどう使うかという点でもバイアスを減らしていく必要があり、これはアルゴリズム自体のバイアスを減らすよりも困難な可能性があると論じている。

 

AI技術は、動物の行動への理解を深める上でも大変有望である。3本目のPerspectiveでChristian Rutzらは、動物の伝達システムを解読するために機械学習(ML)の手法がどのように使われているかをレビューしている。動物同士の伝達方法を理解するには、多くの課題がある。動物は、視覚信号や聴覚信号、触覚信号、化学信号、電気信号などの様々な伝達手段を用いており、それらの方法は人間の知覚能力を超える場合が多いからだ。今回Rutzらは、これまで隠れていた動物の伝達行動における複雑性を明らかにするために、ますます強力になっているMLツールがどのように使われているかをレビューし、これは動物福祉や動物保護に潜在的利益をもたらす可能性があるとの見解を示している。Rutzらは、「今後の進歩を用いて、研究対象の動物に利益をもたらすことが極めて重要だ」と述べている。

 

4本目のPerspectiveでPeter Wurmanらが取り上げているのは、ゲームがいかにして、現実世界にも広く適用できる多くの問題解決能力を見つけ出して磨くための制御された機会をもたらしているか、そしてそれによりゲームは知能機械にとって貴重な訓練の場になっているということである。近年、古典的戦略ゲームではAIが大きく優位に立っているが、Wurmanらは、テレビゲームはAIに克服すべき新たな種類の課題を突き付けている、と論じている。これらの舞台で進歩すれば、物質世界で機能する、能力も柔軟性もはるかに高いAIシステムへと向かって大きく前進することになるだろう。

 

生成系AI ―― 画像や動画、音声、テキストといった多種多様なコンテンツを生成できるAI技術の一種 ―― が、急速に広く一般の人々や科学者、技術者らに採用され始めている。しかし、職業的な芸術家、作家、音楽家からは、自分たちの創作物がこれらのシステムの訓練データとして使われることに異議を唱える人の数が増え続けている。Policy ForumでPamela Samuelsonは、この新たな問題を取り上げ、現在米国で係争中の著作権に関する複数の訴訟が、どのように生成系AIシステムの将来に実質的影響を及ぼしうるかを論じる。これらの訴訟で原告側が勝訴すれば、生成系AIシステムが合法的に学習に使用できる素材は、公開されている作品かライセンスを取得した作品だけになる。それによる影響はこの技術を使うすべての人に及び、科学研究を目的とした使用にも影響は及ぶ。2本目のPolicy ForumではAjay Agrawalらが、AIイノベーションによる作業自動化が、所得格差が拡大している現在の傾向をどう逆転させうるかについて論じる。かつては特別な教育や経験を積んだ人にしかできなかった、経験的知識に基づく活動や創造活動を自動化できるAI技術が急速に開発されていることから、一部の経済学者は、AIは生産性や生活水準にはほとんど利益をもたらさないにもかかわらず、労働市場を大きく混乱させ、格差をさらに広げる可能性があるとの懸念を提起している。今回Agrawalらは、AI開発者は作業を自動化できる方法を考えることで、労働者の全体的な生産性を高めるツールを創造できる、と論じている。それだけでなく、AIによる自動化は、以前は特別な訓練を要したレベルの仕事を低スキル低賃金の労働者にも可能にするイノベーションをもたらし、それにより所得格差が縮小する可能性もある。

 

ReviewではFelix Wongらが、感染症との闘いにおいてAIの進歩がいかに医学・バイオテクノロジー研究に力を与えているかを論じる。Wongらによると、MLなどのAI技術は、感染症治療薬の発見や、感染生物学の理解、新たな診断法の開発に急速な進歩をもたらした。さらなる適用により、感染症の発生や世界的流行を予測し制御する能力を向上できる可能性もある。2本目のReviewではBing Huangらが、その比較的高い予測力ゆえに化学・材料科学の中枢をなす「密度汎関数理論」が、化合物空間のナビゲートに使用されるMLベースモデルの開発で果たしてきた重大な役割に焦点を当てている。Huangらは、この分野における継続的な進歩は、エキゾチックな化学物質や組成を自動運転実験室で日常的に扱うことのできるソフトウェア制御ソリューションへの道を開くものである、と論じている。

 

最後に、様々な著者による一連のVignetteでは、高度な医療ロボットにおけるAIの適用を取り上げる。これらの機器で使用される、コンピュータービジョンや医用画像分析、精密操作、MLなどのAI技術によって、自律ロボットが画像診断を行ったり、複雑な手術を支援したりできるようになる。さらに、装着型リハビリ機器や高度な人工装具にAIを組み込めば、より個別化された患者ケアや、さらにはユーザーがシームレスに操作できるAI搭載人工装具も可能になる。


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