米国ヒスパニック系学生受入大学(HIS)の学部生811人に対してランダム化試験を実施した結果、協調学習と学生参加型授業に重点を置いた微積分学の授業を受けた学生は、従来の講義スタイルの授業を受けた学生に比べて、微積分の概念をより深く理解し、成績が向上することが明らかになった。Laird Kramerらによると、参加型授業による「治療」の効果は、人種や民族、専攻や性別を問わず現れたという。微積分学は通常、STEM専攻で高度な内容を学ぶための基礎となる。そのため、STEM学位やSTEM職への障壁を取り除くには、学生の微積分学の成績を向上させることが不可欠であり、特に、従来十分な教育を受けていなかった学生にとっては、ことさら重要である。フロリダ国際大学のKramerらによる研究は、パターン認識、接続、仮説の形成と検証といった「数学的思考の習慣」を養う参加型授業モデルを使用して、3学期にわたって実施された。大半の授業では、学生は少人数グループで学習し、講義は最低限しか行わなかった。研究者らによると、これまでの微積分学の入門クラス(主に講義形式で実施)の合格率は平均55%だったが、参加型授業による治療を行うと合格率は11%向上したという。大学で初めて微積分学を学ぶすべての学生で、このように成績が向上すれば、微積分学に合格する学生が毎年220人増えることになる ―― 参加型授業を全米で実施すれば、米国で年間3万3000人の学生が合格することになる。こうした成績向上により、各学期に必要な授業数が減り、全米の学生の授業料が推定2390万ドル節約できる、と研究者らは試算している。
今週のScience Podcastでは、ホストのSarah CrespiがKramerと共に、微積分学のカリキュラムの刷新につながる彼の研究について語る。また、Scienceのスタッフと共に、図形を回転させるのが苦手だったことや、物理学を専攻するのをためらったことなど、それぞれが抱える微積分のトラウマについても語る予定である。こうしたエピソードに限らず、研究によっても、多くの学生(特に女性やマイノリティの学生)が、微積分学の授業が原因で、STEM分野に進むのを思いとどまっていることが示されている。Kramerの研究チームによって、従来と異なる方法で授業を受ければ、学生の定着率が大幅に向上することが示された。Kramerらの研究について論じるこのポッドキャストは、8月31日(木)午後2時(米国東部時間)に、https://www.science.org/podcastsで公開される。
Journal
Science
Article Title
Establishing a new standard of care for calculus using trials with randomized student allocation
Article Publication Date
1-Sep-2023