News Release

2014年のScience誌の10大ブレークスルー

探査機ロゼッタの研究成果および彗星への着陸が今年

Peer-Reviewed Publication

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

このニュースリリースには、英語で提供されています。

探査機ロゼッタは今年8月、火星軌道より遠くにあるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)に追いついた。Science誌編集部は、ロゼッタの予備段階の成果―(および近い将来実現するであろう研究―)を、今年の最も重要な科学的業績に選んだ。

Scienceとその出版元である国際的非営利組織AAASが選出した、この1年間の画期的な科学的業績のリストには、医学やロボット工学、合成生物学、古生物学などにおける画期的な進歩も含まれている。

2014年のリストの上位10項目は、本誌の12月19日号をはじめ、関連するニュース記事やマルチメディア・コンポーネントで発表される。

探査機ロゼッタとその着陸機フィラエは、11月、各メディアに大きく取り上げられた。フィラエが、高速で動いているチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)の表面に着陸したのだ。フィラエの着陸は予想以上に荒っぽいものだった――フィラエは67Pの表面に無情にもぶつかって跳ね返り、目標地点からかなり離れた場所に横倒しになった――が、それでも史上初めての彗星への軟着陸となった。この2基の宇宙探査機からのデータは、既にこうした彗星の形成と進化に新たな手掛かりを与えている。

「フィラエの着陸は驚くべき業績であり、世界の注目を集めました」と、Science誌ニュース編集長のTim Appenzellerは言う。「しかし、ロゼッタのミッション全体がブレークスルーです。彗星が準備運動し、呼吸し、進化していく様子を、科学者はリングサイドで見ることができるのです」

2004年3月に欧州宇宙機関(ESA)によって打ち上げられた探査機ロゼッタは、現在67Pを周回しており、彗星表面から6.2マイル(10キロメートル)の距離まで近づくこともある。ロゼッタに搭載されたカメラは、彗星上の数センチメートル離れた場所にある物体を区別することができ、一方、分析計群(ROSINA:Rosetta Orbiter Sensor for Ion and Neutral Analysis)は、67Pのコマ(彗星の周りにできる薄いハロー、つまり大気)からガスのサンプルを採取することができる。

ROSINAは既に、水やメタンや水素をはじめ、ホルムアルデヒドやシアン化水素といった珍しいものを、67Pのコマ内で検出している。こうした研究結果が重要なのは、ある種の彗星が水と有機分子を運んで来たことが、初期地球における生命誕生を後押した可能性があると考えられているからだ。12月にROSINAチームが発表したレポートによって、普通の水素に対する重水素(デューテリウム)の比率が非常に高いことが明らかになった。これにより、67Pのようなカイパーベルト(海王星軌道の外側にある領域)に起源をもつ彗星が、水を運んで来た可能性はないことが示唆された。

「ブレークスルーに選ばれるには、2つのうちいずれかを成し遂げなければなりません。人々が長年取り組んできた問題を解決するか、もしくは数多くの新しい研究に道を開くかです」と、Science誌ニュース副編集長のRobert Coontzは言う。「今回の場合、真にすばらしい科学成果が得られるのはこれからでしょう」

67Pの後ろに伸びるガスと塵のジェットに注目することで、こうした彗星が太陽に接近するに従ってどのように進化するかが、いずれ解明されるかもしれない。そうなれば、過去にさかのぼって研究することによって時計を逆戻りさせ、約45億年前にさまざまな彗星が形成された様子を探り出すことができるだろう。

現在フィラエはバッテリーが切れているが、彗星が太陽にもっと近づけば充電できる可能性がある。しかし、たとえ充電できなくても、ESAのミッション・マネジャーによれば、いずれにしても全科学成果の80%は母船であるロゼッタから得られるだろう。ロゼッタ最大の活動は2015年8月に行われる予定で、そのとき67Pは地球と火星の軌道の中間におり、太陽に最接近するという。

Scienceのスタッフは、今年のブレークスルー・オブ・ザ・イヤーの次点9項目に加えて、注目すべき分野(北極海の氷や複合免疫療法など)や、今年の大きな失敗(西アフリカで大流行したエボラ出血熱への対応)、さらには一般の人々が独自にブレークスルーを選んだ読者投票の結果についても述べている。

報道解禁日時を過ぎれば、今年選出されたブレークスルーのリストは、本誌をはじめ、関連するニュース・パッケージやポッドキャストで発表される(http://www.sciencemag.org/special/btoy2014/および http://scim.ag/breakthru14)YouTubeの動画もhttp://scim.ag/breakthru14vidで見ることができる。

本誌が選んだ2014年の主要な科学業績の次点9項目は、以下の通りである(順不同)。

恐竜から鳥への移行:今年、初期の鳥類や恐竜の化石を現存の鳥類と比較した一連の論文が発表された。これにより、いかにしてある種の恐竜の系統が小型で体重の軽いボディプランを発達させ、それにより、多くの種類の鳥類へと進化して、約6千6百万年前の白亜紀末期に生じた大量絶滅を生き延びたかが明らかにされた。

若い血が老化を逆転させる:若齢マウスの血液に含まれるGDF11という因子により、高齢マウスの筋肉と脳を若返らせることが可能であると研究により示された。この結果を受けて、アルツハイマー病患者に若年ドナーの血漿を投与する臨床試験が行われることとなった。

ロボットに共同作業をさせる: 新しいソフトウェアと双方向ロボットにより、例えばシロアリにヒントを得たロボットの大群に単純な構造を組み立てさせたり、25セント硬貨大の千個の機械に四角形や文字などの二次元の形態を作らせたりできるようになり、人間の指示をまったく受けることなくロボットの共同作業が可能であることが示された。

ニューロモーフィック(neuromorphic)・チップ:IBMなどのコンピュータ技術者が今年、ヒトの脳の構造を模倣した、初めての大規模「ニューロモーフィック」チップを公開した。このチップは、生きている脳により近い方法で情報を処理するようデザインされている。

β細胞:今年、2グループが、実験室でβ細胞(膵臓のインスリン産生細胞)に非常に似た細胞を増殖させる2つの方法を新しく開発した。これで、糖尿病を研究するすばらしいチャンスが得られた。

インドネシアの洞窟芸術:インドネシアの洞窟で発見された手形ステンシルや動物の絵は、これまで1万年前のものと思われていたが、実際は3万5千年から4万年前のものであることが明らかになった。この発見により、アジアの人類が、ヨーロッパの洞窟の絵を描いた最古の人類と同じくらい古くに、象徴的な芸術を製作していたことが示唆される。

記憶を操作する:光遺伝学(光線によって神経活動を操作する技術)を用いて、マウスの特定の記憶を操作できることが明らかになった。既存の記憶を消去し、誤った記憶を植え込んで、マウスの記憶の感情面を、良いものから悪いものに変えたり、その逆にしたりすることさえできた。

キューブサット:すでに10年前から宇宙空間に放出されていたが、キューブサットという一辺がわずか10センチという廉価な人工衛星が、2014年に本格的に利用されるようなった。これまで学生用の教育ツールと考えられていたが、これらの小型衛星が科学的研究において実際の役割を担い始めたのである。

遺伝子アルファベットを拡張する:標準的なDNAの構成要素となる通常のG、T、C、Aに加え、さらに2つの核酸(XとY)を持つ大腸菌が作成された。このような合成細菌は研究室外では増殖できないが、「非天然の」アミノ酸を持つタンパク質の創出に利用できるかもしれない。

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