主要な政策や保全投資の決定に使用する地球規模の生物多様性データは、長年にわたる社会的及び政治的不平等を反映する。Policy ForumでMelissa Chapmanらが、この問題とこれが地球規模の保全政策と計画立案に及ぼす影響を強調している。地球規模生物多様性情報機構(GBIF) ―― 地球全域の数十億種の観察結果を集積したデータリポジトリ ―― のような地球規模の生物多様性データリポジトリの急増によって、世界中の大規模な生物多様性パターンについて先例のない知見が得られた。これらのデータは生態学者にとって重要であるのみならず、自然と人々に広く影響する多国間保全活動や世界的投資、生物多様性オフセット市場の創設及び実施を目指す政府や企業にとっても不可欠になっている。しかしChapmanらによると、生物多様性データを生成する仕組みは複雑で一様ではないうえに、究極のところ人間に関連するもので、人間が関係する作用のパターンを空間と時を越えて捉えると言う。彼らは今回、GBIFのデータ上の生物多様性の観察結果が、生物多様性の緯度勾配は反映せず、都市や道路、生物多様性監視技術の進歩といった社会インフラの跡を追う様子を説明している。加えてその観察結果は、武力紛争の痕跡、人種差別主義及び/若しくは植民地主義政策の長年にわたる影響、経済的不平等、政治体制の変化をも様々な規模で明らかにするのである。Chapmanらは、データ格差が地球規模及び国家規模の生物多様性保全政策に及ぼす潜在的影響と、それらの悪影響を軽減できると考えられる方法を考察している。彼らは、生物多様性データの歴史を理解することが、これらのデータシステムによる情報に基づいた政策や活動が不公平を再生したり、深刻化したりしないようにするために重要だと述べている。「データの社会的及び政策的格差に正面から取り組んで是正しなければ、保全分野は他の分野が陥るのと同じわなに陥る可能性が高い。つまり、過去と現在の不公平がデータを通して今後の意思決定にも定着してしまう」とChapmanらは書いている。
Journal
Science
Article Title
Biodiversity monitoring for a just planetary future
Article Publication Date
5-Jan-2024