米国における一連の無作為化試験のデータから、教師がより複雑なゲノミクス概念に向けて遺伝学の指導を進めれば、生徒が人種についてより科学的に正確に理解できるよう促せることが示唆された。これにより生徒が、不平等は遺伝的なものだという考え方を含む非科学的な概念である、遺伝的本質主義を信奉しないようにすることができる。遺伝的本質主義を信奉する人は、(他の考え方もあるのに)ほとんどの人種差が遺伝子で決まると信じている。本質主義的な信念は、生物学的に誤った考え方である。世界中で、生徒は単一遺伝子遺伝に焦点を当てた基礎遺伝学教育を受けている。メンデルの遺伝の法則と、さまざまなバージョンの遺伝子(対立遺伝子)が、パネットスクエアによって簡単にモデル化される確率的機構を介して世代間でどのようにして受け継がれるかを学んでいるのである。これが青年期に遺伝的本質主義が生じるリスク因子であると、Brian DonovanらがPolicy Forumで述べている。そして、「人道的ゲノミクス教育」と呼ぶ枠組みにおいて、遺伝的本質主義に異議を唱える方法でゲノムの概念を教えることを提唱している。Donovanらは、8年生から12年生の生徒に重要な関連概念を教えることで、生徒の人種に関する遺伝的本質主義の信奉の程度が低下する可能性があることが実証された、米国で行われた無作為化対照試験(RCT)を取り上げている。このような概念の1つは、ほとんどの遺伝的多様性は地理的集団間ではなく、地理的集団内で発生するというものである。関連研究の結果によると、このような概念を教えられた学生は、人種に遺伝的な違いはないという認識を抱く可能性が高いため、遺伝的本質主義を信用しない可能性が高い。しかし、これらの過去のRCTには重大な限界があった。これらの限界を克服するために、Donovanらは新しいクラスター無作為化クロスオーバー試験をデザインした。この試験では、すべての参加クラスターに介入指導(ヒトゲノミクス教育)と対照指導(基礎遺伝学教育)を別々の期間に連続して行った。この試験は、これらの2つの指導スタイルが人種の概念化にどのような影響を与えるかを初めて検討するものであった。
2019年12月から2022年5月にかけて、Donovanらは米国6州(コロラド、イリノイ、インディアナ、カンザス、ニュージャージー、マサチューセッツ)から教師15名と生物学学生1063名を募集した。参加した教師は、人道的ゲノミクス介入の実施方法を学ぶために40時間の専門能力開発を受けた。結果によると、人道的ゲノミクスのクラスに参加した学生は、ゲノミクスに関するより深い知識を示し、遺伝的本質主義を信奉する程度が低かった。重要なことに、生徒は、遺伝的本質主義を疑い始めると、人種は社会的概念であり人種間の格差は偏見によって引き起こされているという考え方に引きつけられるようになった。対照的に、基礎遺伝学教育には生徒に対するこのような利点がなかった。このアプローチのスケールアップに関する懸念に対処するために、Donovanらは、カリフォルニア大学システムの学部生約1000名を対象に実施した追加の事前登録個人無作為化試験の結果について説明した。結果から、オンラインプラットフォームを通じて、比較的費用対効果が高く時間効率の良い方法で人道的ゲノミクス指導を拡大できることが示唆された。「遺伝的本質主義的な信念の蔓延を減らすためには、長年の生物学指導を通じて広められた複数回の人道的なゲノミクス学習経験が必要だろう」とDonovanらは述べている。
Journal
Science
Article Title
Human genomics education can reduce racism
Article Publication Date
23-Feb-2024