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低粘度オイルでPDMS SlipChipを強化:安全な細胞研究と 濃度勾配生成を可能に

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Toyohashi University of Technology (TUT)

図1:PDMS SlipChipの操作原理。

image: 下層:マイクロウェルのアレイを持つ下部PDMS層。上層:異なる試薬を含む可能性のあるマイクロウェルのアレイを持つ上部PDMS層。流体充填:上部および下部層のマイクロウェルに異なる溶液が充填されるプロセスの図。重ね合わせ:「スリッピング」メカニズム後。上部層が下部層に対して相対的に移動し、マイクロウェルが整列・接続され、混合と濃度勾配の形成が可能になります。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学の次世代半導体・センサ科学研究所 永井萌土教授、機械工学専攻 博士後期課程 Rafia Inaam氏らは、アルゼンチンのトランスレーショナル医学・生体医工学研究所(IMTIB)およびインド工科大学マドラス校と共同で、多機能マイクロ流体デバイス「PDMS SlipChip」の操作性と信頼性を向上しました。低粘度シリコーンオイルを使用し、PDMSの製造プロセスを調整し、SlipChipが細胞を用いた実験に対してより信頼性を高め、正確な濃度勾配の形成をより簡易にしました。この技術により、流路詰まりや細胞への毒性といった以前の問題が解決され、薬剤開発や高度な細胞研究を含む生物医学研究の新たな可能性が開かれました。

 

<詳細>

マイクロ流体デバイス「SlipChip」は、複雑なポンプやバルブを必要とせずに微量の液体を操作できるツールです。その主な特徴は、チップ上で異なる溶液を混合して段階的な濃度勾配を形成できることです。これは、例えば細胞が様々な薬剤濃度にどのように反応するかをテストするのに適しており、サンプル使用量や処理のステップ数を抑えられます。

PDMS(シリコーンの一種)は、その柔軟性と細胞親和性により、これらのチップに近年使用され始めました。しかし、潤滑剤(シリコーンオイル)を使用してPDMS層間の「スリップ」を適切に保ちながら、内部の液体の漏れや詰まりを起こさず、PDMS自体を適切に準備することは困難でした。従来は、漏れを防ぐために高粘度オイルが使用されていましたが、それらは微小な流路を詰まらせることがあり、細胞に有害である可能性がありました。一方、低粘度オイルは詰まりにくいものの、密封性は低下する傾向にありました。

豊橋技術科学大学の永井教授が率いる研究チームは、PDMSの接着性と材料の剛性のバランスを取る解決策を見出しました。彼らは低粘度シリコーンオイル(50 cSt)に着目し、PDMSの硬化温度を最適化しました。研究の筆頭著者であるRafia Inaamさん(博士後期課程)の説明は次の通りです。「PDMSの硬化方法が、層の接着性と材料全体の硬さの両方に影響することがわかりました。私たちの『部分硬化アプローチ』(上層を80°C、下層を60°C)で加熱すると、良好なバランスが実現しました。これにより、低粘度オイルを使用しても、漏れや詰まりなく、滑らかな円滑なスリップ操作(※チップの滑らかなしゅう動)を実現しました」

この最適化されたPDMS SlipChipは、従来よりも安定して機能します。より薄いオイルでも十分な密封性を維持し、漏れを防ぎ、流路も透明なままです。ヒト骨肉腫細胞(がん細胞の一種)でテストしたところ、50 cStオイルは細胞との良好な親和性を示しました。標準的な細胞培養方法と同等の生存率である95%を維持しました。これにより、以前の高粘度オイルにおける懸念点が克服されました。

永井教授は「このオイルと硬化プロセスの実用に向けた最適化により、PDMS SlipChipのこれまでの課題を解決し、良好な性能と安全性の両方を実現しました。これにより細胞培養の信頼性が向上し、SlipChipの濃度勾配形成能力を活用できるようになりました。この技術が基礎細胞生物学から応用薬剤発見といった研究へ貢献することを期待しています」と述べています。

 

<今後の展望>

研究チームは現在、最適化されたPDMS SlipChipのより先進的な応用を探索しています。例えば、チップ上で直接形成された薬剤濃度勾配に対する細胞応答のテストや、細胞間相互作用の研究など、高度な哺乳類細胞実験への応用です。彼らはまた、タンパク質検出などの詳細な生体分析への応用も視野に入れています。この改良されたSlipChip技術は、より効率的な薬剤スクリーニングを可能にし、再生医療における細胞操作技術を進歩させて、個別化医療に貢献します。


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