フィジーのアリに関する新しい研究 - 博物館のコレクションの中の4,000を超えるアリの標本のゲノム配列決定を含む - により、3,000年前に人類が初めてこの群島に到達して以降、ほとんどの在来種が減少していることが示された。一方、最近導入されたアリの種は増大している。この調査結果は、人間活動が脆弱な島の生態系をどのように作り変え続けてきたかを明確に示している。地球の生物多様性の大部分を構成する昆虫は、授粉、土壌の健康、自然過程での害虫駆除などの重要な生態系サービスを提供している。最近、昆虫の個体数と多様性の激減に関する報告 - 「昆虫の黙示録」と呼ばれたりする - が世界的懸念を引き起こしている。こういった激減をもたらす要因として、生息地破壊、農業集約化、気候変動、農薬使用、光害が高い頻度で挙げられているが、激減の規模と普遍性については議論が続いている。その理由は、大半の研究が比較的短期のデータやわずか数十年から数世紀という期間の歴史的コレクションに依存し、長期的傾向がほぼ調査されていないことにある。しかし今は、ゲノム技術の進歩によって、数千年にわたる個体群の歴史的傾向を再構築し、近年と古代の人間活動が昆虫のコミュニティをどのように形成して来たかがわかるようになった。
Cong Liuらは今回、フィジー諸島のアリの個体数、多様性、生態学的役割の長期的傾向について調査を行った。アリ - 個体数が多く、機能的に重要 - はより幅広い生物多様性パターンの指標であることから、そういった昆虫研究に適している。また、フィジーのような固有種の多い島は人間の影響を特に受けやすい。Liuらは、フィジーの博物館のコレクションから4,000を超えるアリの標本についてハイスループットゲノム配列決定を行うコミュニティゲノミクスアプローチを利用して、フィジー諸島におけるアリの長期的なコミュニティ形成と個体数の統計学的傾向を推測した。彼らによると、フィジーのアリ相は少なくとも65回のコロニー形成イベントによって作られたという。一部は数百年前に到達した種で、それがフィジーの固有種となった。太平洋地域でのコロニー形成もフィジーのアリ相に影響を及ぼした。同様に、近代、世界規模での貿易を通して人間が導入してしまったアリの種の影響もあった。注目すべきことに、集団モデリングでは固有種と非固有種の明確な違いが明らかになった。固有種のアリの約79% - ほとんどは標高の高い手付かずの森に限定される - は減少しており、その減少は、3,000年前に人類が初めてフィジーに定住した後に始まり、この300年でヨーロッパ人との接触、工業型農業、種の導入と並行して加速している。対照的に、広く分布する太平洋の種や近年人間が導入した侵入種のアリは、固有種より耐性が高かったり、人間が優位を占める生息地にうまく適応できていたりで、特に撹乱された低地の生息地では、一般的に個体数が増大している。これらの異なる軌跡は、生態学的特性、生息地の好み、生物地理学的背景によって人新世において「勝つ種、負ける種」がどのように決まるかを示していると、Liuらは述べている。
本研究で使用された方法とコレクションの新規性にご興味のある記者の方へ:研究の共著者であるEvan Economoは次のように述べています。「コミュニティゲノミクスとは、1つ若しくは少数の種ではなく、共生する多数の種(すなわち、生態学的コミュニティ)のゲノムデータからパターンと経過を一気に推測するアプローチのことを言います。今回は、多数の種を並行して分析することで、コミュニティ全体の個体数変化のパターンを推測し、一般的な傾向を知ることができました。原理上、このようなアプローチには、それが減少のエビデンスの探求のためであれ、関心のある他の生態学的動態の探究のためであれ、あらゆる分類群のコミュニティの分析につながる可能性が大いにあります。今回のプロジェクトでは、博物館のコレクションからゲノムデータを回収しました。このことは、新しい技術が利用可能になるに従って、そういった標本がいかに持続的な情報源であるかを示す例です。コレクションは単に、収蔵庫に保管された古い物であるに留まりません。数十年、若しくは数世紀前に最初にその標本を集めた人々には想像もできないような形でそれらが持つ情報が明らかになるにつれ、そのコレクションの価値は徐々に上がります。さらに、私たちは、生物多様性を示すコレクションが将来人類によってどのように利用されうるかを完璧に予測することはできません。したがって、後生の人々のためにコレクションを管理し、増やすことへの投資が極めて重要です。」
Journal
Science
Article Title
Genomic signatures indicate massive declines of endemic island insects
Article Publication Date
11-Sep-2025