マウスを用いた新たな研究によると、脳は一時的にシナプス結合を半分以上失った後でも記憶を保持できる。これは、長期記憶は安定した個々のシナプスに依存しているという長年にわたる見解に疑問を呈するものである。むしろ今回得られた知見が示唆しているのは、記憶は回復力に富む神経構造のパターンによって保持されており、この方法において脳は記憶された情報を保持しながら脳回路を再構築できるということである。長期記憶は脳の永続的な変化に依存しており、それはニューロン同士の結びつきの強化によるものと考えられていた。ところが、このようなシナプスの変化や記憶に関連するニューロンのパターンは時間の経過とともに驚くほどに不安定になりうることが研究で示されており、脳は常にリモデリングされているのに記憶はどうやって保持されるのかという未解明の疑問が生じていた。このことは、記憶は個々のシナプス結合の維持ではなく、より広範な神経機構のパターンの維持に依存していることを示唆している。
今回、Yu-Ju Linらは、マウスの人工冬眠モデルを用いて、記憶保持の基礎をなす構造的機構について研究した。著者らによると、このプロセスを研究するのに冬眠中の哺乳類はまたとないほど好都合である。というのも、その脳は休眠中には活動が劇的に低下し構造変化を受ける一方で、覚醒時には記憶を保持しているからである。Linらは、脳構造のイメージングと解析および行動テストによって、これらの動物は人工冬眠中に海馬の活動が約70%低下しシナプスの半分以上が消失した後でも、通常の状態に戻ると記憶を保持しており元の神経機構を回復していることを明らかにした。この知見は、記憶は個々のシナプスで保持されているのではなく、冬眠に伴う広範囲に及ぶ脳のリモデリングの際にも保護が維持される結合したシナプスの特定のクラスターを含む、回復力のある神経構造のパターンによって保持されている可能性があることを示している。このような保持された構造モチーフが「コア記憶痕跡」として働くことで、脳は保存された記憶を維持しながら、大きな混乱の後でも機能的なネットワークを再構築できるようになっている可能性がある。
Journal
Science
Article Title
Artificial hibernation reveals synaptic engram architecture associated with memory retention.
Article Publication Date
13-Aug-2026