News Release

次世代DNA定量法を用いた魚類生物量・個体数の推定

Environmental DNA survey surrounding you

Peer-Reviewed Publication

Hiroshima University

image: This image shows a mesocosm experiment that involves different numbers of common carp. view more 

Credit: Institute for Sustainable Sciences and Development, Hiroshima University

このニュースリリースには、英語で提供されています。

【本研究成果のポイント】

水中に存在しているDNA(環境DNA)を,次世代DNA定量法であるデジタルPCR法*1を用いて測定することで,高精度に魚(コイ)の生物量(水槽内の重さ)と個体数(水槽内の数)を推定する手法を開発しました。 デジタルPCR法を用いた野外実験で,コイの生物量(重さ)や個体数(数)に比例して,コイのDNAの濃度が高くなることを明らかにしました。 湖や河川などの水から魚の生物量と個体数が推定できることから,迅速かつ簡便な野外での調査・モニタリング手法としての活用が期待されます。

広島大学サステナブル・ディベロップメント実践研究センターの土居秀幸特任講師,龍谷大学の山中裕樹講師,神戸大学の源利文特命助教らは,次世代DNA定量法の1つであるデジタルPCR法を用いて,水の中に溶けているDNAから魚類生物量・個体数を推定する手法を開発しました。デジタルPCR法とは,DNAサンプルを油膜で区切られた2万個の小さな(2ピコリットル)粒(ドロップレット)に小分けして分析する手法です。

デジタルPCR法を用いてコイのDNA量を測定することで,従来のリアルタイムPCR法などの手法よりも,高精度に魚(コイ)の生物量(水槽内の重さ)と個体数(水槽内の数)を推定できることがわかりました。

本研究成果は,3月23日(月)(米国東部標準時9時)付けで米国Public Library of Scienceの科学雑誌『PLOS ONE』にオンラインで掲載されました。
URL:http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0122763

論文名:"Use of droplet digital PCR for estimation of fish abundance and biomass in environmental DNA surveys."
著 者:Doi,H., Uchii,K., Takahara,T., Matsuhashi,S., Yamanaka,H., Minamoto,T.

【背景】

水域にどのような種類の魚がどのくらい生息しているのかを調べるためには,これまでは網などで実際に魚を捕まえたりする必要があり,多くの時間や労力を要しました。湖や河川などの水には,魚のフンやはがれ落ちたうろこなどから出たDNA(環境DNA)が浮遊しています。これらの環境DNAを用いて,魚類などの大型生物の生息分布や生物量を推定する手法を,近年,土居特任講師・山中講師・源特命助教らのグループで開発しています。また,2012年には,同研究グループで従来の定量法であるリアルタイムPCRを用いた定量法を開発・発表しています。

【研究手法と成果】

土居特任講師らの研究グループは,コイを用いて,野外実験水槽(約500リットル)による操作実験を行いました。12個の水槽に,3匹〜85匹まで様々な数のコイを入れて飼育しました。その飼育水から15ミリリットルの水をとって,環境DNAを採集し、DNA断片を増幅・定量できる「デジタルPCR法」を用いて,コイの生物量(重さ)や個体数(数)に比例して,コイのDNAの濃度が高くなることを明らかにしました。また,1,2,3日の実験日でも同じような傾向が得られました。 本研究では,DNA採集手法を改善し,さらにデジタルPCR法を用いた測定を導入することにより,DNA量が少ない場合には,2012年に発表した手法に比べ,定量誤差を最大1/5〜1/10に低減することができました。これにより,野外においても生物量・個体数などの定量がより正確にできるようになると考えられます。

【期待される波及効果】

本研究では,わずか15ミリリットルの水からDNAの濃度を調べることで,魚の生息状況(特に生物量,重さ)を簡便かつ迅速に推定できる手法を開発しました。今後は,本研究によって確立した環境DNA定量手法を,野外での生物量の把握へと応用することが考えられます。また,希少種,外来種に特異的なDNAをターゲットとすることで、それらの生物の生息状況の調査へと応用することも期待できます。

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*1 デジタルPCR法:デジタルPCR法とは,DNAサンプルを油膜で区切られた2万個の小さな(2ピコリットル)粒(ドロップレット)に小分けして分析する手法です。ドロップレット内で,ターゲットとする生物種のDNAを,PCR(合成連鎖反応)により特異的に増やします。ドロップレット内でDNAが増幅すると,蛍光を発するようになります。その蛍光をひとつのドロップレットごとに測定することで,各ドロップレット内にターゲット種のDNAがはいっているか,いないかを1,0で判別します。1と判別されるドロップレットの数によって,DNAの量を定量します。0か1で判別するため"デジタル"PCR法と呼ばれています。


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