News Release

ニモの白帯模様はどうやってできた?

クマノミ類特有の白い帯模様は、宿主であるイソギン

Peer-Reviewed Publication

Okinawa Institute of Science and Technology (OIST) Graduate University

Le poisson-clown Amphiprion percula

image: Le poisson-clown Amphiprion percula, possède une jolie robe orange avec 3 bandes blanches liserées de noir : une sur la tête, une sur le corps et une sur la queue. view more 

Credit: Tane Sinclair-Taylor

クマノミ属の魚類は、変態の過程で特有の白い帯模様が形成されるが。 本研究で、クマノミ属の1種であるクラウンアネモネフィッシュの白帯の形成速度が、宿主とするイソギンチャクの種類によって異なることを発見した。 白い縞模様の形成速度に影響を与えるのは、変態において重要な役割を果たす甲状腺ホルモンである。 ハタゴイソギンチャクに生息するクラウンアネモネフィッシュは、センジュイソギンチャクに生息するクラウンアネモネフィッシュに比べて、甲状腺ホルモンの値が高い。前者は、甲状腺ホルモンの合成に関わるDUOX遺伝子の活性が高まっていることも明らかになった。

映画『ファインディング・ニモ』で一躍有名になったサンゴ礁のアイドルとも言えるクマノミ類は、からだにある白い帯模様が特徴です。この白帯は、クマノミ類が仔魚から成魚へと成長する変態という過程で現れますが、この独特の模様がどのようにして現れるのかは長い間、明らかになっていませんでした。

しかし、今回の新たな研究により、クマノミ類の1種であるクラウンアネモネフィッシュ(Amphiprion percula)の白帯の形成速度が、宿主とするイソギンチャクの種類によって異なることが明らかになりました。また、変態において重要な役割を果たす甲状腺ホルモンが、デュアルオキシダーゼ(DUOX)と呼ばれる遺伝子の活性を変化させ、それによって白帯の形成速度が決定づけられることも明らかになりました。

同論文の責任著者で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の海洋生態進化発生生物学ユニットを率いるヴィンセント・ラウデット教授は、次のように説明します。「変態は、クマノミ類にとって重要な過程です。なぜなら、これによって外見だけでなく生息する環境も変わるからです。仔魚として生息した外洋からサンゴ礁に移動し、定着して生活するようになるのです。宿主であるイソギンチャクの種類によってクマノミ類の変態がどのように変化するかが理解できれば、これらの異なる環境にクマノミ類がどのように適応するかという疑問だけでなく、気候変動のような他の環境変化からどのような影響を受けるかという疑問に対する答えを明らかにするのにも役立ちます。」

2021年5月25日(日本時間)に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された本研究では、まずフランスのCentre for Island Research and Environmental Observatory(CRIOBE)の研究チームが、パプアニューギニアのキンベ湾でクマノミ属のクラウンアネモネフィッシュを調査しました。

現地のクラウンアネモネフィッシュは、センジュイソギンチャク(Heteractis magnifica)、またはより毒性の強いハタゴイソギンチャク(Stichodactyla gigantea)のどちらかを宿主としています。

研究チームは、調査の過程でハタゴイソギンチャクに生息するクラウンアネモネフィッシュの稚魚が、センジュイソギンチャクに生息するクラウンアネモネフィッシュよりも早い時期に成魚に見られる白帯を獲得していることに気がつきました。

「イソギンチャクの種類によって、白帯の形成が速くなったり遅くなったりする理由だけでなく、その違いをもたらす要因を解明することにとても関心がありました」と語るのは、論文の筆頭著者で、パリ大学ソルボンヌ校バニュルス=シュル=メール海洋学研究所で博士研究員としてサンゴ礁魚類のカラーパターンを研究しているPauline Salis博士です。

また研究チームは、カエルの変態の引き金として知られる甲状腺ホルモンに注目し、クラウンアネモネフィッシュに近縁なカクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)を使った研究も実験室で行いました。

研究チームは、カクレクマノミの仔魚に異なる量の甲状腺ホルモンを投与しました。その結果、甲状腺ホルモンの投与量が多いほど、カクレクマノミの白帯が早く形成され、逆に甲状腺ホルモンの産生を止める薬を投与すると、白帯の形成が遅くなりました。

白帯は、特定の遺伝子サブセットを発現する虹色素胞と呼ばれる色素細胞によって形成されます。研究チームは、甲状腺ホルモンが、この虹色素胞の遺伝子を活性化させることで、白帯の形成を促進させることを発見しました。

同チームは次に、これらの観察結果が自然環境下でも同様に見られるかどうかを検証しました。CRIOBE研究チームは、再びキンベ湾を訪れ、2種類のイソギンチャクからクラウンアネモネフィッシュの幼魚を採取し、フランスのサリス博士のもとに輸送しました。

その結果、サリス博士は、ハタゴイソギンチャクから採取したクラウンアネモネフィッシュの方が、センジュイソギンチャクから採取したクラウンアネモネフィッシュよりもはるかに高い甲状腺ホルモンの値を示すことを確認しました。

研究チームは、甲状腺ホルモンの濃度が高くなる原因を解明するために、クラウンアネモネフィッシュのゲノムに含まれるほとんど全ての遺伝子の活性を測定しました。

ラウデット教授は、次のように述べています。「驚いたことは、これらすべての遺伝子のうち、2種類のイソギンチャクから採取したクラウンアネモネフィッシュの間で異なっていた遺伝子は、わずか36個だったということです。そして、その中のデュアルオキシダーゼ(DUOX)遺伝子と呼ばれる遺伝子が、私たちに真の意味での発見をもたらしたのです。」

デュアルオキシダーゼというタンパク質を作るDUOX遺伝子は、甲状腺ホルモンの合成に重要な役割を果たしていることが、先行研究で明らかになっています。ハタゴイソギンチャクから採取したクラウンアネモネフィッシュでは、センジュイソギンチャクから採取したクラウンアネモネフィッシュよりも高いDUOX遺伝子活性を示しました。

さらに、米国バージニア大学のDavid Parichy教授と共同で行った実験では、DUOX遺伝子が虹色素胞の発達において重要であることが確認されました。ゼブラフィッシュのDUOX遺伝子を不活性化すると、虹色素胞の発達が遅れることが研究で判明しました。

これらのデータを合わせると、ハタゴイソギンチャクを宿主とするクラウンアネモネフィッシュのDUOX遺伝子の活性が上昇すると、甲状腺ホルモンが増加し、その結果、虹色素胞の発達が早くなるため、白帯が速く形成されると考えられます。

しかし、今回の研究によって、科学的に明らかにしなければならないさらに多くの疑問も生じています。その中の一つが、白帯の形成速度が変化する生態学的な理由です。

この疑問に関して研究チームは、ハタゴイソギンチャクの方が強い毒性を持つため、ストレスに対する反応としてクラウンアネモネフィッシュの甲状腺ホルモンの量が増加するためではないかと推測しています。

ラウデット教授は、最後に次のように述べています。「ここOISTで、考えられる答えをいくつか検討し始めています。私たちは、この白帯形成における変化は氷山の一角に過ぎず、クマノミ類が2種類の異なるイソギンチャクに適応するための変化は他にも多く存在しているのではないかと考えています。」

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