ANP32Aと呼ばれる蛋白質は複数の細胞プロセスに関与しているが、Frederique Cornelisらの新たな研究により、酸化障害による破壊から関節軟骨を保護し、変形性関節症の発症および進行を予防することが明らかにされた。この所見から、一部の抗酸化物による治療が軟骨破壊の進行の阻止および変形性関節症の重症度の抑制に有用となり得るだけでなく、他の骨や脳の疾患にも有用である可能性が示唆される。変形性関節症は世界的にみて最も頻度の高い関節疾患で、世界の成人人口の25%以上が罹患しており、この疾患による疼痛と可動性の喪失は、高齢者と過体重が増加しつつある世界の人口において慢性身体障害の主要な原因となっている。関節破壊の背景にある分子メカニズムは不明であり、このため関節機能を回復させ、疾患の進行を遅延または阻止する治療を見出すことは難しい。Cornelisらは、ヒトおよびマウスの変形性関節症組織ではANP32A濃度が低いことを発見し、この蛋白質が正常な組織で果たしている機能を調べることを試みた。遺伝子発現プロファイリングを行ったところ、ANP32Aは関節軟骨細胞において酸化ストレスへの反応の一環として、ATMという酵素の濃度を上昇させることが分かった。興味深いことに、ANP32A欠失マウスに対して抗酸化物であるN-アセチル-システイン(NAC)を飲料水に入れて数回摂取させたところ、変形性関節症の症状と軟骨破壊が抑制された。著者らは、マウスにおいてANP32Aの欠乏が骨減少と関連し、また毛細血管拡張性運動失調(A-T)に似た神経疾患とも関連すること、さらにこれらの疾患もNACを用いた抗酸化物療法により治療可能であることも発見した。
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Journal
Science Translational Medicine