News Release

尿酸高値は加齢・病態時の女性の肺にとってメリットとなる

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Lung Disease Mouse Model with High Blood Uric Acid Levels

image: Suppression of uricase (UOX), a uric acid-metabolizing enzyme, in a pulmonary pathological mouse model with elevated uric acid levels improved symptoms of lung disease in female mice only. view more 

Credit: Dr. Tsuyoshi Shuto

熊本大学の研究者グループは、生体内の抗酸化物質の一つである尿酸が、加齢や肺の病気に従って低下しうる女性の肺機能を維持する働きを持つことを発見しました。尿酸高値は、痛風や腎障害等の病気を引き起こすものですが、「女性の」肺機能低下に対しては、意外にも保護的に働くことが証明されました。今後、肺における尿酸や抗酸化物質の働きを改めて見直すことで、男女差に考慮した健康増進や肺疾患治療への応用が期待されます。

尿酸は、一般に痛風や腎臓病などを引き起こす悪玉物質としての印象が強い一方で、組織に障害をもたらす酸化ストレスを弱める抗酸化物質としても有名で、生体にとって必須の因子でもあります。尿酸は、肺の組織に多く存在することがかねてより知られていましたが、これまで、肺での働きは不明でした。また、男性と女性では、加齢や病気に伴う肺機能低下の程度も異なることも知られていました。

そこで、研究者らはまず、尿酸値の高い肺病態モデルマウスを作成しました。マウスにおける尿酸値はヒトと異なり低値に保たれている点に着眼し、遺伝子破壊および阻害剤による処置により、マウスが持つウリカーゼ(UOX)という尿酸代謝酵素の働きを抑制することで、マウスの尿酸値を上昇させました。この手法を、肺気腫または慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ肺病態モデルマウスにそれぞれ用いることで、血中の尿酸値を上昇させた肺病態モデルマウスを作成しました。その結果、UOX遺伝子破壊とUOX阻害剤処置のいずれのモデルマウスにおいても、メスマウスのみ尿酸値が高くなることで、肺気腫の進行や呼吸機能の低下などの肺の症状が改善することが明らかになりました。一方、オスマウスの尿酸値が高くなると、肺の病気の症状は変化しないか、むしろ悪化する場合もあることがわかりました。このことより、尿酸は、意外にも、メスマウスの肺には保護的に働くことがわかりました。

さらに、ヒト肺上皮細胞を用いた実験から、尿酸は、肺上皮細胞にかかる酸化ストレスを抑制することも明らかにしました。また、興味深いことに、女性由来の肺上皮細胞を用いた解析から、尿酸による抗酸化作用は、女性ホルモンの存在によって消失することが明らかになりました。このことは、女性ホルモン量が低い女性ほど、肺組織において、尿酸による抗酸化作用が発揮されやすいことを意味しており、女性ホルモン量が低下した高齢女性などに尿酸の保護作用が強く現れる可能性が示唆されました。

次に、人間ドック受診者(50歳以上)を対象とした疫学解析により、女性においては、SLC2A9/GLUT9 T/T遺伝子型保有者で尿酸値が高く、かつ呼吸機能の指標であるFEV1/FVCも高いことを示し、本遺伝子型が肺機能に対して保護的に働いていることを明らかにしました。また、構造方程式モデリングの結果から、本遺伝子型が尿酸高値を介して、肺機能維持に関わることを明らかにしました。過去に、閉経した女性に対する女性ホルモン療法は肺機能維持に良い影響を与えることが報告されており、我々のヒトでの検討結果から、閉経に伴って女性ホルモンが減少した女性では、尿酸の持つ抗酸化作用が肺機能保護に特に重要であることが示唆されました。

以上の、マウス・ヒト細胞を用いた実験およびヒト疫学解析の結果から、尿酸の肺における役割が明らかになりました。本発見は、尿酸が、女性においてのみ、加齢や肺の病気に伴って進行する肺機能の低下に対して、意外にも保護的に働くことを証明した初めての発見です。

研究を主導した首藤准教授は次のようにコメントしています。

「本研究成果は、加齢や病態が進行した女性において肺機能を維持するために、尿酸のような抗酸化物質が重要であることを改めて示唆するものです。私たちは過去に、抗酸化機能をもつ栄養素ビタミンCや抗酸化剤N-アセチルシステインが、肺の病気の進行を遅らせることも報告しており、今後、肺における尿酸や他の抗酸化物質の働きを改めて見直すことで、男女差に考慮した健康増進や肺疾患治療への応用が期待されます。」

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本研究成果は、学術雑誌誌「Antioxidants」に令和2年5月6日に掲載されました。

[Source]

Fujikawa, H., Sakamoto, Y., Masuda, N., Oniki, K., Kamei, S., Nohara, H., ... Shuto, T. (2020). Higher Blood Uric Acid in Female Humans and Mice as a Protective Factor against Pathophysiological Decline of Lung Function. Antioxidants, 9(5), 387. doi:10.3390/antiox9050387


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