News Release

見たらつい食べたくなるのは本能だった

〜視覚情報を摂食行動に結びつける神経回路の発見〜

Peer-Reviewed Publication

Research Organization of Information and Systems

One-Week-Old Zebrafish Larva and a Paramecium

image: This is a Zebrafish larva trying to catch prey. view more 

Credit: National Institute of Genetics (NIG)

■ 成果掲載誌

本研究成果は、平成29年4月20日10時(英国時間)に英国オンライン・ジャーナル Nature Communications に掲載されます。

論文タイトル:Activation of the hypothalamic feeding centre upon visual prey detection (獲物を視覚的に認識したときの視床下部摂食中枢の活性化)

著者: Akira Muto, Pradeep Lal, Deepak Ailani, Gembu Abe, Mari Itoh, Koichi Kawakami (武藤 彩、プラディープ・ラル、ディーパック・アイラニ、阿部 玄武、伊藤 万里、川上 浩一)

■ 研究の詳細

 研究の背景

「目で食べる」という言葉があるくらい、食べ物を見ると食べたくなるというのは日常的に誰もが経験します。目で見て食べものかどうかを判断する仕組みとして、神経行動学では「獲物検出器」という概念が1950年代から提唱されていましたが、実際に獲物検出に特化した脳の領域が存在するかどうかは不明でした。他方で、1970年代にサルを用いた電気生理学の実験から、食べ物を見ただけで反応する神経細胞が視床下部に存在することが示されていましたが、食べ物を視覚的に認識する脳の部位と、食欲をコントロールする視床下部とがどのように結びつけられているのか、その神経回路の実体はわかっていませんでした。

 本研究の成果

本グループは、カルシウムイメージングという手法を用いてゼブラフィッシュ稚魚の脳神経細胞の活動を観察しました。その結果、餌となるゾウリムシを視覚的に認識したときに前視蓋(4)と呼ばれる領域にある神経細胞の集団が反応すること、それらの神経細胞の興奮は直接、視床下部の摂食中枢へと伝達されることを発見しました。さらに、レーザー破壊法や神経毒を用いた解析手法により、これらの前視蓋-視床下部回路の働きを阻害すると、摂食行動が抑制されることを見出しました。これらの実験結果から、この前視蓋-視床下部回路が、獲物に関する視覚情報を摂食行動の動機付けへと変換する役割を担うと結論づけました。

川上教授らは、ゼブラフィッシュの特定の組織や細胞集団に、遺伝学的な手法を用いて外来遺伝子を導入する技術開発をおこない、外来遺伝子を導入したゼブラフィッシュを世界中の研究者に供与しています。今回の研究ではこの遺伝学的手法を最大限に活用し、神経活動を可視化するGCaMPを脳の特定の領域に導入したことにより、摂食行動における脳活動の計測が可能になり、新たな神経回路の発見へとつながりました。

 今後の期待

本研究によって、「食べもの」に関する視覚情報を「食べたい」という動機に結びつける神経回路(獲物検出器)が明らかとなりました。今後、この神経回路の研究が進めば、食欲を制御する仕組みの解明や摂食障害の治療法の開発につながると期待できます。

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■ 用語解説

(1)ゼブラフィッシュ:

インド原産の熱帯魚で、ペットとして一般家庭でも飼育されている一方、基礎生物学や医科学の分野ではモデル生物として広く研究に用いられている。

(2)カルシウムイメージング:

神経細胞が興奮すると細胞内のカルシウムイオン濃度が一過的に上昇することを利用して、神経細胞内に導入したカルシウム蛍光指示薬の蛍光強度変化を顕微鏡にとりつけたカメラにより記録することにより、脳活動を観察する手法。

(3)GCaMP:

カルシウムが結合すると蛍光強度が増加するように設計された人工的なタンパク質。

(4)前視蓋:

視覚系に属する脳の領域の一部

■ 研究体制と支援

本研究は情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 初期発生研究部門、川上浩一教授のもとで武藤彩助教、プラディープ・ラル(総研大生、ポスドク ※当時)、ディーパック・アイラニ(総研大生)、阿部玄武(ポスドク ※当時)、伊藤万里(技術補助員 ※当時)によって遂行されました。

本研究は科学研究費(課題番号 JP25290009、 JP25650120、JP15H02370、JP16H01651)、および、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、総合研究大学院大学学融合推進センター(CPIS)の支援を受けました。

■ 問い合わせ先

<研究に関すること>

 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 初期発生研究部門
教授 川上 浩一 (かわかみ こういち)
TEL: 055-981-6740 携帯: 090-5199-6318 メール: kokawaka@nig.ac.jp

<報道担当>

 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室
清野 浩明(せいの ひろあき) TEL:055-981-6745/(広報)5873 メール: hseino@nig.ac.jp


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