News Release

農用トラクタのジャンプ及び横滑りを予測するための非線形力学モデルを開発

Peer-Reviewed Publication

Tokyo University of Agriculture and Technology

Tractor trajectories with different travel velocities and friction coefficients.

image: Solid and dashed lines respectively indicate stable and unstable steering; Trajectory A under V = 1.5 m s-1 and μs = 0.8; Trajectory B under V = 3.0 m s-1 and μs = 0.8; Trajectory C under V = 1.5 m s-1 and μs = 0.4; Trajectory D under V = 3.0 m s-1 and μs = 0.4 (V: Travel velocity of tractor, μs: Friction coefficient between tire and ground). view more 

Credit: Kenshi Sakai / TUAT

東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の渡辺将央大学院生(博士課程2年)、東京農工大学農学研究院の酒井憲司教授(農業環境工学部門)は、農用トラクタに発生するジャンプ及び横滑り現象の非線形力学的モデルの開発を行いました。非線形力学モデルは、農用トラクタで多発する横転事故の予測・制御に向けて開発されました。今後、開発モデルをベースとして、トラクタ横転事故の力学的なメカニズム解明が期待されます。

本研究成果は、Biosystems Engineering(4月)に掲載されました。

論文名:Numerical analysis of steering instability in an agricultural tractor induced by bouncing and sliding

URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S153751102030026X

DOI:https://doi.org/10.1016/j.biosystemseng.2020.01.014

<研究体制>

酒井教授の研究グループでは、カリフォルニア大学デービス校Shrinivasa Upadhyaya教授、ミュンヘン工科大Heinz Bernhardt教授と連携し、農用トラクタの動力学及びドライブシミュレータの研究を行っています。本プレスリリースはその成果の一部です。

<現状>

農業の牧歌的イメージとは裏腹に、世界的中で農作業中の死亡事故が多発し、国際的な健康問題となっています。SDGsの採択など、持続可能な社会を達成する取り組みが加速化する中で、農業も小さくない役割を果たすことが期待されます。持続可能社会を実現するためにも、農作業安全の確保は重要な社会課題となってきます。

<研究成果>

農作業死亡事故の中でも、農業機械に関する事故、特に農用トラクタの横転事故が多発しています。農用トラクタは、通常の自動車とは異なり、車軸サスペンションをもたない、車体重心が高いといった機械的構造を持っています。このような特徴はトラクタ走行時に車体を不安定させる要因となり、凹凸の激しい非舗装路、急傾斜の進入路といった悪条件の走行環境において、車体の速度から動きを予測することが困難な非線形過程として顕在化します。突発的なジャンプや予測不能な横滑りといった現象はこのような顕在化の一例といえます。本研究では、このような現象の予測・制御に用いることのできる力学モデルの開発を行いました。開発モデルでは、ジャンプ現象及び横滑りといった非線形力学を組み込んでいます。実際に事故が発生した進入路(進入角19°)において、開発モデルを用いた数値実験を行った結果、走行速度や摩擦係数といったシステムパラメータの微小な変動が突発的な事故の要因となりうることが判明しました。このような現象は非線形システムに特有のパラメータに対する鋭敏な依存性であり、数値実験の結果は非線形力学が事故につながりうることを示しています。

下図に進入路における数値実験の結果の一部を示します。実線が安定しているトラクタの走行軌道を表し、破線はジャンプ及び横滑りによる操舵不安定化が発生しているときの走行軌道を示しています。数値実験では、走行速度が秒速1.5メートル(1.5 m s-1)、3.0 m s-1、摩擦係数(μs)0.4、0.6の組み合わせでシミュレーションを行いました。走行速度が遅い場合(1.5 m s-1)、Trajectory AとCに示したように、摩擦係数に関わらず、トラクタの走行軌道は、道路から逸脱していません。一方、走行速度が速い場合(3.0 m s-1)、Trajectory BとDに示したように、トラクタの走行軌道は大きく外側に逸れています。特に摩擦係数が0.4の時のTrajectory Dでは、操舵不安定化が路面の端まで続くため、大変危険な状況となっています。これはトラクタの車軸荷重が低下し、ジャンプと横滑りが発生することによって生じています。

<今後の展開>  

今回開発された非線形力学モデルによって、トラクタ横転事故の力学的なメカニズムの一端が明らかになりました。今後は、開発モデルに得られた知見をベースとして、仮想テストドライブなどを用いた事故シナリオの抽出及び事故回避の制御論構築を目指しています。

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