重金属であるガリウムを含有する新規抗菌薬が、マウスにおいて細菌の増殖を安全に抑制し、嚢胞性線維症または慢性肺感染症の患者を対象とした予備的第1相臨床試験においてその有効性が示唆された。この結果は、ガリウムなどの金属によって細菌の代謝機能を攪乱することが、標準的な抗菌薬に代わる有効な代替法となり得るというアイデアを裏付けるものである。抗菌薬が発明されるまでは、銅や水銀などの金属が多くの細菌種に対して毒性を有することが知られていたため、細菌感染症治療に一般的に用いられていた。抗菌薬耐性が将来にわたる脅威として増大しつつあることを受けて、Christopher Gossらは、合金や半導体に用いられる元素金属であるガリウムについて、肺感染症を引き起こす細菌に対する抗菌薬としてのリパーパシングを検討した。この研究は、ガリウムの構造が鉄(細菌の栄養および代謝にとって不可欠)と類似しており、ガリウムを「トロイの木馬」として細菌の代謝系に忍び込ませることが可能であることを利用している。著者らは、入院患者が感染することの多い緑膿菌の感染患者から採取した喀痰サンプルにおいて、低濃度のガリウムが菌の増殖を抑制することを示した。著者らによれば、ガリウムに対する耐性の発現は緩徐であり、ガリウムをコリスチンやトブラマイシンなどの既存の抗菌薬と併用すると効果的であるという。さらに、緑膿菌感染症のマウスモデルにおいて、ガリウムの静注により細菌数が減少し、生存率が改善することが分かった。原理証明(proof-of-principle)臨床試験では、28日間のガリウム静注療法により、嚢胞性線維症または慢性緑膿菌肺感染症の患者20例において肺機能が改善し、重篤な有害作用はみられなかった。著者らは現在、より規模の大きい臨床試験を実施して、従来の抗菌薬との併用におけるガリウムの安全性、効能および有効性をさらに明らかにすることを計画している。
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Journal
Science Translational Medicine