コウモリは反響定位を高度に活用して多くの障害物がある場所を突き進むことがよく知られているが、今回の新しい研究により、この有用な能力は滑らかな垂直面を前にすると、特にその面が人工物であるような場合、妨げられることが判明した。この研究結果により、負傷したり死んだりしたコウモリが建物の近くで発見されることが多い理由が説明でき、人間が作った物が野生動物に与える悪影響が明確に示された。コウモリは暗闇の中を進む際、反響定位に大きく頼っている。高周波音(エコロケーションコール) を発し、返ってくる反響を使って自分の周囲の障害物を探知し、分類し、位置を突き止めているのである。しかし滑らかな垂直面(ガラス窓など)に衝突するコウモリを何度か観察すると、コウモリにとってはそのような垂直面は認識しにくいことが判明した。Stefan Greifらはこの問題をさらに詳しく調査するため、暗闇の中、途切れのない長方形の飛行トンネルを突き進むオオホオヒゲコウモリ(Myotis myotis)を観察した。Greifらは暗いトンネルの隅に金属板を垂直や水平に置いた。自然環境では滑らかな垂直面は珍しいが、滑らかな水平面には水面という形でコウモリは遭遇している。21羽のコウモリのうち19羽は垂直に置かれた板に少なくとも1回は衝突したが(通過回数のうちの平均23%)、水平に置かれた板には衝突しなかった。垂直板との衝突を回避したコウモリと比較して、衝突したコウモリはエコロケーションコールが少なく、板の前で過ごす時間が短く、板に近づく角度はより鋭角で、飛行速度も速かったことをGreifらは発見した。洞窟の外で3種のコウモリで行った野外実験でも同様の結果が得られたという。これらの結果についてはPerspectiveでPeter Stilzが説明している。
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