News Release

炎症反応を強力に抑える活性イオウ誘導体の開発に成功

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

Therapeutic Effect Of A Polysulfide Donor On A Murine Model For Endotoxin Shock

image: When lipopolysaccharide derived from E. coli was administered intraperitoneally in mice, the survival rate decreased to 20% after 96 hours in the untreated group. Treatment with a polysulfide donor 30 minutes after administration of lipopolysaccharide improved the survival rate to 90%. In the treatment group, they also found that the amount of cytokines, an indicator for inflammation, was greatly reduced. view more 

Credit: Prof. Tomohiro Sawa

熊本大学の研究者らが、細胞や組織に含まれる活性イオウと呼ばれる生体成分を人工的に増やすことができる新しい活性イオウ誘導体の開発に成功しました。この活性イオウ誘導体は極めて高い抗炎症作用を持つことから、新しい抗炎症療法への展開が期待されます。

我々の細胞の中ではアミノ酸の一つであるシステインから、システインパースルフィド(活性イオウ)という代謝物が常に作られています。最近の研究で、活性イオウは細胞を活性酸素から守ったり、またある条件ではミトコンドリアでの呼吸を維持する大事な働きがあることがわかってきました。細胞内の活性イオウ含量を人為的に増やすことができる、活性イオウ誘導体は、活性イオウの働きを調べる重要なツールと期待され、世界中でその開発が進められています。一方、病気に対する活性イオウ誘導体の治療効果はほとんど知られていません。

今回、熊本大学の研究者は東北大学との共同研究により、新しい活性イオウ誘導体として、人工アミノ酸の一種であるアセチルシステインにイオウ原子を複数連結した新規誘導体の合成に成功しました。この活性イオウ誘導体自身が活性イオウのもととなる過剰なイオウ原子を含む誘導体(ドナー)であり、細胞に作用させると細胞内のシステインやグルタチオンにイオウ原子を渡すことによって細胞内の活性イオウ量を増やす仕組みです。実際にこの誘導体を細胞に作用させると、速やかに細胞に浸透し、さらに細胞内の活性イオウ含量が著しく増加することを明らかにしました。

さらに、この活性イオウ誘導体を作用させた免疫細胞:マクロファージでは、炎症を誘導するような様々な物質(例えばグラム陰性菌に由来するリポ多糖など)による刺激に対して、ほとんど応答しなくなっている事を発見しました。つまりほとんど炎症を起こさなかったのです。そこで、炎症が過剰に起こることが原因で致死的となるエンドトキシンショックを起こした状態のマウスに、活性イオウ誘導体を投与したところ、生存率が著しく改善することを発見しました。

研究を主導した澤智裕教授は次のようにコメントしています。 「今回の結果は、活性イオウが免疫機能の調節に密接に関わることを明らかにし、さらにこの活性イオウを人工的に増やすことで炎症病態を改善できることを初めて示した画期的な成果です。過剰な炎症反応は、エンドトキシンショックの他にも、アレルギー性疾患や自己免疫疾患などの発症にも大きく関わっています。これらの治療にはステロイドホルモンや免疫抑制剤が使われますが、副作用などの問題もあります。今後、細胞内の活性イオウ調節を標的とした新しい抗炎症療法への展開が期待されます。」

本研究成果は、科学ジャーナル「Cell Chemical Biology」に2019年3月7日に掲載されました。

[Source] Zhang, T., Ono, K., Tsutsuki, H., Ihara, H., Islam, W., Akaike, T., & Sawa, T. (2019). Enhanced Cellular Polysulfides Negatively Regulate TLR4 Signaling and Mitigate Lethal Endotoxin Shock. Cell Chemical Biology. doi:10.1016/j.chembiol.2019.02.003

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