News Release

赤血球を作り出す不死化ヒト赤芽球細胞株 「ELLU細胞」を樹立

Recently developed cell line is a potential source for generating endless amounts of red blood cells outside the body.

Peer-Reviewed Publication

Kumamoto University

image: Hematopoietic stem cells isolated from various sources such as bone marrow and umbilical cord blood are differentiated to erythroblasts, immature red blood cells that still hold a nucleus. These cells are then transduced with virus expressing HPV-E6/E7 to be immortalized. Established cell lines can be easily maintained and expanded infinitely. At a desired time, those cells are placed into a different culture condition to mature toward RBCs, which are then used for transfusion. view more 

Credit: Dr. Kenichi Miharada

(概要説明)
 熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS)の三原田賢一特別招聘教授のグループは、日本赤十字社中央研究所、スウェーデン・ルンド大学との共同研究により、ヒト成人骨髄細胞から半永久的に増殖し、赤血球へと分化する能力を有する不死化赤芽球細胞株(ELLU細胞、図1)を樹立しました。近年、日本を含む多くの国で輸血用の血液が不足している状態が続いており、赤血球を体外で作製して輸血に利用する方法の開発が続けられています。本研究を発展させることで、安全かつ安定的な輸血用赤血球の供給につながることが期待されます。本研究成果は令和3年11月24日に日本ヒト細胞学会が刊行する国際誌「Human Cell」にオンライン掲載されました。

(説明)
[背景]
 昨今、日本を含む多くの国で輸血用の血液が不足している状態が続いています。さらに、せっかく献血によって集められた血液でもウィルス感染等による汚染の危険性があり、世界中で安全かつ安定的な輸血用血液の供給が求められています。この状況を打開するために、体外で赤血球を作り出し、輸血に用いる方法の開発が続けられています。

赤血球は、ヒトの身体に存在する細胞の80%以上を占め、身体中に酸素を運ぶ役割をもつヘモグロビンとよばれるタンパク質を含みます。以前は臍帯血や骨髄などに含まれる血液細胞の源である造血幹細胞(注1)を用いて赤血球を大量に作製する方法が検討されていましたが、造血幹細胞は非常に稀な細胞であることから、輸血で必要とされるだけの赤血球を作製することは困難でした。そこで、赤血球になる手前の幼若な細胞である赤芽球(注2)を「不死化」した細胞(細胞株)を樹立し、半永久的に増殖させることで赤血球を大量に作製する方法が試されています。

[研究の内容と成果]
 今回、研究チームは、ヒトの骨髄に含まれる造血幹細胞から誘導した赤芽球にヒトパピローマウィルス(HPV)の持つE6/E7遺伝子(注3)を導入して不死化細胞株(ELLU細胞)を樹立しました。これまでに研究チームはヒトの臍帯血の造血幹細胞や、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞から赤芽球細胞株を樹立してきましたが、今回、新たに成人の骨髄に含まれる造血幹細胞から赤芽球を誘導してELLU細胞を樹立しました。ELLU細胞は1年以上にわたって安定した増殖を続けており、不死化され培養可能な細胞集団、すなわち細胞株であると判断されます。

 これまでは増殖中の赤芽球細胞株に分化・成熟を促し、赤血球にするためにはHPV-E6/E7遺伝子の働きを止める必要があると考えられており、過去に樹立された細胞株には遺伝子の働きを調節するスイッチが組み込まれていました。ELLU細胞ではこのスイッチを使わず、より単純な仕組みで不死化を行いましたが、培養条件を変えるだけで分化が起こり、ヘモグロビン合成や核の凝縮などの赤芽球分化で起こる現象が観られました。中には核を放出(脱核)して、より成熟した細胞へ変化するものも存在しました。

 ELLU細胞の性質は均一ではなく、異なる分化能力を持つ細胞が混在していると考えられたため、元となるELLU細胞を一つ一つの細胞に分けてから個別に増殖させる作業(クローニング)を行いました。その結果、同じドナー(成人骨髄)からクローンELLU細胞が10種類以上得られました。驚いたことに、ELLU細胞は成体型ヘモグロビンを作っている成人骨髄から樹立されたにもかかわらず、多くのクローンで胎児型ヘモグロビンを合成しており、成体型ヘモグロビンを合成しているクローンはむしろ少数でした。これまでの研究では成体型ヘモグロビンを合成している細胞の方が分化能力が高く、赤血球を作りやすい細胞株であるとされていましたが、分化前から成体型ヘモグロビンを持つELLU細胞クローンは、分化の誘導に伴いすぐに壊れてしまいました。一方で、胎児型ヘモグロビンを持つELLU細胞クローンは、培養の条件を変えると次第に成体型ヘモグロビンを作るようになり、壊れる細胞の割合も低いことがわかりました。

[展開]
 本研究では、複雑な遺伝子調節システムを使わない赤芽球細胞株である「ELLU細胞」の樹立に成功しました。また、ELLU細胞は異なる性質をもち、合成しているヘモグロビンの型によって赤血球へ変化する能力に違いがあることもわかってきました。ELLU細胞から完全な赤血球ができる割合はまだ高くありませんが、これらの情報を基に、より詳しい遺伝子発現比較等を行うことで、さらに赤血球を作る能力が高い細胞株を樹立したり、赤血球へ分化する効率を高めたりする研究につながることが期待されます。なお、ELLU細胞は今後、理化学研究所バイオリソース研究センター(理研セルバンク、茨城県つくば市)から入手可能になる予定です。

 

[用語解説]
(注1)造血幹細胞
全ての種類の血液細胞に分化することができ、生涯にわたって血液を供給する源流となる細胞。
(注2)赤芽球
赤血球になる前の、まだ細胞に核が残っている状態の細胞。造血幹細胞が分化して作られる。さらに成熟すると細胞の中の遺伝情報が詰まった核が放出(脱核)され、赤血球となる。
(注3)HPV-E6/E7
子宮頸がん発症の原因とされる高リスク型HPVの遺伝子で、導入された細胞の増殖を促し、不死化することが知られている。細胞株の樹立に使われる際はHPV本体ではなくE6/E7遺伝子のみを別のウィルスベクターに搭載しているため、制御可能な状態になっている。さらに、赤芽球への成熟の過程で脱核が起こるとHPV-E6/E7遺伝子も同時に消失するため、理論的に赤血球ががん化する心配はない。


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