世界の31の山岳地域を対象とした新しい研究によると、保全の重要性が地球上で最も高い生物多様性ホットスポットの1つである熱帯山岳地域では、気候ではなく他の種との競争が多様な鳥類の分布を決めるという。この調査結果は、熱帯山岳地域の生物多様性の形成において種の相互作用がこれまでの認識よりはるかに大きな役割を果たしてきたことを示すとともに、熱帯山岳地域に生息する種が気候変動にどう反応するかを知る新たな手掛かりでもある。熱帯山岳地域は地球上で最も生物多様性が高い地域の一部で、多くの場合そこには全く異なる様々な種が狭い標高域にのみ生息している。より広い標高域に生息する傾向がある温帯山岳地域の種とはかなり異なるパターンで、これは熱帯気候の気温季節性の低さへの適応の結果だと広く考えられている。熱帯山岳地域の気温は、低地では高く高地では低いといった幅はあるものの、どの標高でも年間を通して比較的安定しており、山の斜面に沿って様々な気候ニッチができている。これらの多種多様なニッチへの生理学的適応が、熱帯山岳地域に多数の種が集まるという結果につながっている。しかし、気候の影響ではなくむしろ種間の競争が、熱帯山岳地域の種が生息する標高域を限定していると主張する研究者らもいる。Benjamin Freemanらはこれら2つの相反する説を検証するために、世界の31の山岳地域に分布する森林の鳥類の生息標高域について比較分析を行った。使用したのは、eBird ―― 鳥類の分布と個体数についての世界的な市民科学データベース ―― に集約されている中の440万の詳細な地域記録である。Freemanらは、有力な説に反して、種が豊かというのは気温季節性よりむしろ生息標高域の狭さを予測させるということを発見し、熱帯の鳥類の狭い生息標高域は気候より種の相互作用と競争によって決まるとしている。ただFreemanらによると、これらのパターンが鳥類以外の分類群にとっても一般的かどうかはまだ解明されていない重要な問題だという。
Journal
Science
Article Title
Interspecific competition limits bird species' ranges in tropical mountains
Article Publication Date
22-Jul-2022