News Release

霊長類ゲノム特別号

Reports and Proceedings

American Association for the Advancement of Science (AAAS)

霊長類は多くの場合、様々な要因、例えば気候変動、生息地喪失、不法な取引や狩猟などに脅かされているため、霊長類の遺伝的多様性についてより完全な理解が緊急に必要とされている。霊長類の多様性を特徴付けることで、これらの種に対する理解を深めて野生において保存することが可能になるだけでなく、我々自身をより深く理解する助けともなる。

Scienceの特別号では、Science Advancesからの関連する2つの研究を含めた10報の論文が、霊長類に関する過去のゲノム解析をはるかに凌駕する新しいインサイトを提供している。Lukas Kudernaらによる研究は、本特別号に掲載した他のいくつかの研究の基礎を提供するものとして、霊長類属の86%を占め、その全16科を代表する霊長類233種の全ゲノムデータを結果として提示している。同研究の著者らはこのデータセットを用いて、ヒトとチンパンジーの分岐が起ったのは900万~690万年前であると推定したが、これは最近の複数の分析による結果より若干古い。著者らはまた、ゲノムの変化と、気候や社会性などの変数との関連も検討した。さらに、遺伝的多様性の推定値について、これまで論争の的であった、霊長類絶滅のリスクと関連するか否かについても検討された。「我々が行った広範なサンプリングにもかかわらず、推定された多様性と、国際自然保護連合(IUCN)の数値でコードされた絶滅リスクとの間で世界的に関連は認めなかった」と、著者らは記している。最後に著者らはこのデータを用いて、現生人類系統で生じたが、他の霊長類では発生していな遺伝子変異についてより優れた全体像を描き出している。

非ヒト霊長類の重要性にもかかわらず、参照ゲノムのシークエンシングは同種の10%未満でしか行われておらず、これにより研究が阻まれると同時に、保存の取り組みも妨げられている。Yong Shaoらは本特別号の別の研究で、霊長類27種について質の高い参照ゲノムを紹介しており、利用できるリソースを広げてくれた。特に興味深いこととしてShaoらは、真猿型下目(Simiiformes)の共通の祖先においてこれまでに報告されていなかったゲノム変化率の上昇を報告しており、このことはその後における真猿型下目の分化とヒトの進化において重要な役割を果たした可能性がある。

Iker Rivas-Gonzálezらの研究は、個体群全体における種分化のプロセスに関する疑問に取り組んでおり、特にゲノムの一部の領域において、生態学的種分化が生じた後に長期にわたって差が認められないのはいかにしてであるかに焦点を当てている。このプロセスは、「不完全遺伝子系統仕分け(incomplete lineage sorting)」と呼ばれる。霊長類全体における不完全遺伝子系統仕分けを念頭において、同研究の著者らは、これまでの試みとは異なり、化石に基づく推定と一致した霊長類の系統発生を明かにすることができた。

Hong Wuらによる研究は、哺乳類の進化における雑種形成(交配)に焦点を当てており、この役割についてはこれまでほとんど研究されていない。同研究の著者らは、オナガザル科シシバナザル属(Rhinopithecus genus)に属する一群の種についてゲノム配列を検討し、ハイイロシシバナザルがキンシコウと、現存するシシバナザル属の2つの科の共通の祖先との交配から生まれたことを示す明らかなエビデンスを見出した。さらに著者らは、ハイイロシシバナザルにみられる独特の毛色は、この交配によるものであることも報告している。交配の歴史を持つとして特定されている1群の種のサルとして、ヒヒ属(いわゆるヒヒ)がある。Erik Sørensenらは全ゲノムシークエンシングを用いて、互いに重複するヒヒ属の種における進化史を明かにし、繰り返し交配が生じたことを示すエビデンスを見出した。「我々は、3つの異なる系統に由来する遺伝要素の組み合わせを有するヒヒの個体群の例を初めて報告している」と著者らは述べている。また、Bao-Lin ZhangらもScience Advancesで霊長類における交配に焦点を当て、マカク属として知られている全種をカバーする12種の参照ゲノムを比較した。その比較系統ゲノミクス解析から、交配によるマカク系統の古代の起源が明らかにされた。「我々の研究は、雑種種分化を同定するためのゲノム解析の戦略と同時にそのパイプラインを提供するものであり、これにより将来に起こるであろうそうしたイベントの同定および探索への道が開かれるはずである」と、Zhangらは記している。


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