米国で最も広く使用されている高校の生物の教科書6冊を分析した結果、これらの教科書はセックスとジェンダーについて、確立した科学的知識から逸脱し、代わりに、「本質主義」 ―― 生物のカテゴリーには根本的な「特質」があるという説 ―― と一致する形でセックスとジェンダーを表現していると、研究者らが報告している。この分野における本質主義の影響についての研究では、これまで、高校の生物の教科書がこれらについて学生に教えてきたことは調査されていなかった。セックスとジェンダーについての本質主義的な見方は複数の説の知識に基づいている。セックスとジェンダーについての科学的研究とは合致しないものの、これらの説は広く受け入れられている。セックス(生物学的現象)とジェンダー(社会文化的現象)は、これらの現象を研究する生物学者の間では注意深く区別されているが、公の場での議論では区別されないことが多く、そういった場では一般的に混同されている。生物の教科書でもこの2つの現象が混同されているならば、それは「十分に確立した科学的知識とは乖離した無知な素人考えに権威を与えることになる」と、Brian DonovanらがPolicy Forumで書いている。
Donovanらは、非常に人口密度の高い4つの州 ―― カリフォルニア、テキサス、ニューヨーク、フロリダ ―― の少なくとも2つの州で採用されている教科書に焦点を合わせ、セックスとジェンダーについての本質主義的な見方の社会文化的情報源として、高校の生物の教科書を調査した。彼らは、全米の高校の生物入門クラスの66%でみんなが使用したと思われる2009年から2016年に出版された6冊の教科書を特定した。そして、これらの教科書から遺伝学とセックス若しくはジェンダーについて説明した章を選び出して分析を行った。1つの分析として、セックスとジェンダーが所定の段落で明確に区別されているかどうかを調べた。このカテゴリーにコード化された段落はどれ一つとしてセックスとジェンダーを区別していなかった、つまり、そこの文章は生物学的現象(セックス)と社会文化的現象(ジェンダー)を不適切に混同していると、彼らは報告している。さらなる分析で、教科書がセックス若しくはジェンダー集団内の膨大な連続的ばらつきを過小評価している、言い換えれば、本質主義的な見方をする人々(セックス若しくはジェンダー集団内の個人個人は同一と考える傾向のある人々)と一致する見方をしていることも示した。総合すると、彼らは自分たちの調査結果を基に、調査を行った教科書がセックスやジェンダーについて本質主義的なメッセージを伝えていると述べている。「生物学教育は、遺伝子継承について過度に単純化した見解を提示しているとして、長い間批難されてきた。今回の結果で、生物教育が不十分であるまた別の重要な面が浮き彫りになった。より楽観的に言うならば、今回の結果はこれらの望ましくない結果を避けるために教科書をどのように改訂できるかをも示唆している」とDonovanらは言う。Donovanらは、現在の教科書の改訂可能な部分をいくつか強調している。
Journal
Science
Article Title
Sex and gender essentialism in textbooks
Article Publication Date
23-Feb-2024